いろいろわかる… クリス・ハート、ロングインタビュー! 活動再開後 初のアルバムは、ほぼ全曲で 作曲・編曲も担当した 初のセルフプロデュース作! クリスの本当の姿が素直に表現された、これまでのイメージとはちょっと違う、再デビュー作とも言えるアルバム!「たぶん、皆さんが知らないパッションがある…」これがホントのクリス・ハートだ! -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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いろいろわかる… クリス・ハート、ロングインタビュー! 活動再開後 初のアルバムは、ほぼ全曲で 作曲・編曲も担当した 初のセルフプロデュース作! クリスの本当の姿が素直に表現された、これまでのイメージとはちょっと違う、再デビュー作とも言えるアルバム!「たぶん、皆さんが知らないパッションがある…」これがホントのクリス・ハートだ!

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インタビューの最後に、読者プレゼントあり!

Chris Hart ”COMPLEX”

クリス・ハート

New Album 『 COMPLEX 』

★ これがホントのクリス・ハートだ! 活動再開後、初のオリジナル・アルバム!
★ ほぼ全曲で 作曲・編曲も担当した、初のセルフ・プロデュース作 全15曲収録!
★ クリスらしい日本語バラードから、洋楽にしか聴こえない英語詞曲、インスト曲まで!

★ シンガーとしてはもちろん、作編曲家、プロデューサーとしての才能が際立っている!
★ クリスにしか作れない、聴けば聴くほど好きになるポップアルバム!
★ クリスの本当の姿が素直に表現された、再デビュー作とも言えるアルバム!



クリス・ハート 7/14(水)発売 AL「COMPLEX」全曲ティザー映像

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クリス・ハート 本人による全曲ライナーノーツ



クリス・ハート「Flashback」

「ちゃんと 〜mother‘s blues〜」リリックビデオ

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「monochromatic」リリックビデオ

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「Flashback」リリックビデオ

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リリース 情報


Chris Hart ”COMPLEX”
クリス・ハート 「COMPLEX」

アルバム CD
2021年7月14日 発売
UMCK-1694
¥3,300 (税込)
UNIVERSAL SIGMA / UNIVERSAL MUSIC

<収録曲>

01 Prelude To Tomorrow
  (作詞:福永瞳、作曲・編曲:クリス・ハート)
02 monochromatic
  (作詞・作曲・編曲:クリス・ハート)
03 Flashback
  (作詞:福永瞳、作曲:クリス・ハート、編曲:本間昭光)
04 ちゃんと 〜mother’s blues〜(COMPLEX Ver.)
  (作詞:福永瞳、作曲・編曲:クリス・ハート)
05 All I Want Is You feat.Catherine Aria
  (作詞・作曲・編曲:クリス・ハート)
06 GOING UNDER feat.凪渡 (Ochunism)
  (作詞:福永瞳、凪渡、作曲:・編曲:クリス・ハート)
07 青春プリズム
  (作詞:福永瞳、イノウエタカシ、作曲:クリス・ハート、編曲:多保孝一)
08 The Interlude *インスト曲
  (作曲・編曲:クリス・ハート)
09 コンプレックス
  (作詞:福永瞳、作曲・編曲:クリス・ハート)
10 波 feat.Nathan East *インスト曲
  (作曲:クリス・ハート, yas nakaijima, Nathan East, Weber Marely、編曲:クリス・ハート)
11 Breathe Again
  (作詞:クリス・ハート、福永瞳、作曲・編曲:クリス・ハート)
12 迷子のサンライズ
  (作詞:福永瞳、作曲・編曲:クリス・ハート)
13 大人になっていく
  (作詞:福永瞳、作曲:河村佳希、編曲:本間昭光)
14 In The End
  (作詞:クリス・ハート、作曲:Ben Pelchat、Steve Raiman、クリス・ハート、
   編曲:Ben Pelchat, クリス・ハート)
15 I LOVE YOU (2020 Ver.)- BONUS TRACK –
  (作詞:H.U.B & 坂詰美紗子、作曲:坂詰美紗子、編曲:Ben Pelchat, Steve Raiman, クリス・ハート)


クリス・ハート ユニバーサルミュージック

クリス・ハート オフィシャルサイト

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クリス・ハート 歌詞一覧



番組情報


Amusic Diner (アミュージック・ダイナー)
7月 マンスリー DJ:クリス・ハート

2021年 7月4日 ~ 7月25日 毎週 日曜日 AM 8:00 〜 9:00 (全4回)
FM COCOLO

4週にわたってマンスリー DJ を担当! アルバム制作の裏側を語る!

FM COCOLO「Amusic Diner」番組サイト
FM COCOLO
FM COCOLO ラジコ(radiko)で聴く!


TBS「音楽の日」
2021年 7月17日(土)14:00 〜 21:54 生放送
TBS系テレビ

和歌山・世界遺産の絶景から中継!

TBS「音楽の日」番組サイト



コンサートツアー情報


クリス・ハート 全国ホールツアー 2021 「LOVE IS MUSIC」
チケット:7,900円(税込)

<スケジュール>
2021.09.11 (土) 千葉県 習志野文化ホール
2021.09.19 (日) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
2021.09.20 (月・祝) 愛知県 愛知県芸術劇場大ホール
2021.09.25 (土) 京都府 京都劇場
2021.10.09 (土) 神奈川県 厚木市文化会館大ホール
2021.10.10 (日) 大阪府 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)メインホール
2021.10.20 (水) 福岡県 福岡市民会館
2021.11.02 (火) 宮城県 トークネットホール 仙台(仙台市民会館)大ホール
2021.11.03 (水・祝) 埼玉県 さいたま市文化センター 大ホール
2021.11.20 (土) 東京都 TOKYO DOME CITY HALL
2021.11.21 (日) 東京都 TOKYO DOME CITY HALL

オフィシャル先行 チケットぴあ



クリス・ハート ロング・インタビュー


 2013年に、木山裕策のカバー『home』で、日本で歌手デビューしたクリス・ハート。
 2018年から約2年間の活動休止期間を経て、昨年、2020年の活動再開後、初のオリジナルアルバムとなる『COMPLEX』がリリースとなる。アルバムは、前作、2016年の 4th Cover Album『Heart Song Tears』以来、約5年ぶり、通算10枚目となる。
 
 最新アルバム『COMPLEX』は、ボーナス・トラックの『I LOVE YOU (2020 Ver.)』を含めた 収録曲 全15曲の中に、英語詞、日本語詞の曲が混在し、インストゥルメンタルも2曲収録されている。そのほとんどで、作曲・編曲も担当、英語詞も自身で作詞した、クリス・ハート 初のセルフ・プロデュース作品となっている。
 
 クリス・ハートと言うと、多くの人にとっては、「J-POP の 名曲バラードを 日本語で歌う黒人歌手」というイメージだろう。
 
 しかし、このアルバムは、そのイメージとはちょっと違う。
 
 もちろん、先行シングルにもなっている『ちゃんと 〜mother’s blues〜』のような、クリスらしいバラードも収録されているが、さわやかなアップテンポのポップナンバーや、洋楽のように聴こえるビートの効いたアメリカン・ポップス、低い声を使った AOR風のナンバーなど、実にバラエティにとんでいる。
 
 シンガーとしての魅力はもちろんだが、むしろ、コンポーザー、アレンジャー、そして、全体を構成するプロデューサーとしての才能が際立って感じられるアルバムだ。ひとつの物語のように緻密に構成・演出されたアルバムからは、「クリスって、実はこういう人で、こういうことがやりたかったんだ」ということが、よくわかる。単純に聴いていて心地よく、心に響いてくるものがある。
 
 もともと、小学校のころはクラシックが好きで木管楽器を演奏していたし、父親が好きだったファンクやジャズ・フュージョンも聴いた。中学生の時、J-POP と出会い、その魅力に取り憑かれた。
 高校生のころからは、ギターやピアノもはじめ、バンド活動をしていた。その後、地元のサンフランシスコで、自分で作詞・作曲をしたオリジナル曲を演奏するバンドで活動し、アメリカ・ツアーを行う日本人アーティストのオープニング・アクトを任されるまでのバンドだった。
 
 だから、このアルバムを聴いた時に、「J-POP の名曲バラードのカバーを歌っていたのに、急に音楽性が変わった……」と感じる人もいるかもしれないが、クリスは、もともと、自分で曲を作りプロデュースをしていたのだ。
 
 もっと言えば、クリスは、歌手になるために日本に来たわけではなかったし、歌手になりたいと強く思っていたわけでもなかった。たしかに、J-POP が大好きで歌ってもいたし、もちろん、音楽は大好きでずっと続けてはいたが、ある意味、成り行きのような形で歌手デビューしてしまったと言っても良いかもしれない。
 
 2017年に日本国籍を取得し、日本人となったクリスは、そのイメージどおり、真面目で、素直で、常に一生懸命。よく「日本人よりも日本人らしい」と言われるように、気遣いにも長けているし、やさしい。と同時に、シャイで繊細、どちらかと言えば、気にしすぎたり考え込む方で、意外にも、実は、歌手のように「自分が前に出る」というタイプでもない。
 
 最新アルバム『COMPLEX』には、そんなクリスの本当の姿が、素直に正直に表れている。
 
 コンプレックスとは、極めてパーソナルなものだ。他人から見れば、なんてことのないようなことでも、本人にとって重大なことだったりする。でも、それがコンプレックスというものだ。
 自身の性格を客観的に分析した上で、自分のコンプレックスと向き合い、「Who am I ?」「自分は何者で、どこへ向かうべきか?」を自身に問いかけ、「自分らしくありたい」「ありのままの自分でいい」というメッセージが込められたアルバムとなった。
 さらけだし、イメージに縛られることなく自由に「やりたいことは全部できた」と話す。
 
 だから、今作は、クリス・ハートの再デビューとも言えるアルバムだ。
 
 とは言え、「やりたいことは全部やった」反面、「これまでのファンにどう思われるのか?」ということが気になるようで、インタビュー中も、「あ〜 よかった〜]を連発していたのが印象的だった。
 
 クリスが書くメロディや、作り出すサウンドは、洋楽的でありながら、どこか日本ぽく、日本人の心に響く。サンフランシスコで生まれながら「僕は J-POP で育ったから」と話すように、洋楽も日本のポップスとしてうまく昇華している。
 
 いずれにしろ、日本人で他に、こんなアルバムを作れる人はいない。まさに、クリス・ハートだからこそできた「One and only」な、とてもいいポップアルバムで、聴けば聴くほど好きになるはずだ。


<もくじ>

1 初めてのセルフ・プロデュース・アルバム 〜「たぶん、皆さんが知らないパッションがある…」〜 
2 クラシックなサウンドを作りたかった 〜「聴いたことあるようなサウンドだな〜って…」〜 
3 英語詞は自分で、日本語詞は妻でもある福永瞳が作詞 〜「今までにない感じの歌詞になればな…」〜
4 やりたかったことが全て出来たアルバム 〜「あんまり前に出たい人じゃなかったから…」〜
5 サンフランシスコで J-POP と出会う 〜「メロディが綺麗だなと思いました…」〜
6 仕事がクビになったことから歌手デビュー 〜「そのころは、ホントにもうカオスでした…」〜
7 自分らしくありたい、ありのままの自分でいい 〜「僕はやっぱり考えすぎるタイプだから…」〜


1 初めてのセルフ・プロデュース・アルバム 〜「たぶん、皆さんが知らないパッションがある…」〜 
 
 英語詞の作詞と、ほとんどの曲の作曲と編曲を手がけた初めてのセルフ・プロデュース・アルバム『COMPLEX』は、クリス・ハートのこれまでのイメージ、すなわち「J-POP のバラードの名曲を日本語で歌う歌手」という雰囲気とは違う。
 もちろん、先行シングルにもなっている『ちゃんと 〜mother’s blues〜』のような、クリスらしいバラードも収録されているが、さわやかなアップテンポのポップナンバーや、まるで洋楽にしか聴こえないような英語詞の曲、低い声を使った AOR風のナンバーなど、実にバラエティにとんでいる。加えて、1980年代の LA フュージョンのようなインストの曲も 2曲収録されている。
 シンガーとしての魅力はもちろんだが、むしろ、コンポーザー、アレンジャー、そして、全体を構成するプロデューサーとしての才能が際立って感じられるアルバムだ。
 全15曲が、ひとつの物語のように緻密に構成・演出されたアルバムからは、「クリスって、実はこういう人で、こういうことがやりたかったんだ」ということが、よくわかる。単純に聴いていて心地よく、気持ちのいいアルバムで、心に響いてくるものがある。
 
 「よかった……、大丈夫かなぁ〜っていうのがあったので(笑)。やっぱり歌手としてのイメージが大きいので、もともとバンドやってたりとか、セルフ・プロデュースした経験もあるんですけど、皆さんはわからないし、いままでバラードが多かった分、今回、こういうリズムのある曲に変えて、もちろん、自分の声をメインにしている部分はあるんですけど、アレンジも楽器もすごい大好きだから、ボーカリストのアルバムにもインスト入れるのは、皆さん理解してくれるかな〜? と、ちょっと心配だったんです。」
 
 「でも、トータルで音楽を楽しむって考えた時に、やっぱり自分の声には限界がある……。自分の高いところから低いところの範囲で歌える曲があるとか、声のトーンに合うジャンルとか、そういうところをあんまり意識しないで、自由に曲を作ろうという気持ちで作ったんですね。もともと、アレンジ(編曲)とか、そういうことがすごい大好きで、たぶん、皆さんが知らないパッションがある……(笑)。」
 
 もともと、地元のサンフランシスコ時代、アマチュアでバンド活動をしていたクリスは、自分で作詞・作曲・編曲もやっていた。だから、最近、突然、そういうことを始めたわけではないし、ずっと、やりたかったことなのだろう。「クリス・ハートは、こういうことがやりたいんだ」ということが、よくわかるアルバムだ。
 
 「そうですね、やりきった感じはあります(笑)。すごくいろんなジャンルも、今まで歌ってたバラードとかも意識して、『ちゃんと 〜mother’s blues〜』とかも作ったりしてたんですよね。でも、ちょっと意識を変えて、何か違うアプローチからもバラードをと思って……、たとえば『波 feat. Nathan East』っていう曲はバラードとして作り始めて、コード進行とかアレンジを簡単に作って、もともとボーカルも入れようと思ってたんですけど、でも、なんか、ネイザン・イースト(Nathan East)さんも参加してくれてるし、逆にインストにすれば、インストでバラードにする感じがちょっと新しいなって思って、そんな感じはちょっといろいろチャレンジしました。」
 
 今回、コロナ禍ということもあり、レコーディングは、日本、アメリカ、カナダ、ブラジルをつないでのリモート・レコーディングで行われた。しかし、逆に、それが功を奏し、ベースには、世界最高峰のベーシストと称されるネイザン・イースト(Nathan East)が10曲に参加している。もともと、LA ジャズ・フュージョン系のスタジオ・ミュージシャンとして知られるベーシストだが、、ジョージ・ベンソンやジョー・サンプルらのほか、フィル・コリンズ、エリック・クラプトン、ジョージ・ハリスン、スティーヴィー・ワンダーらのレコーディングにも参加している。
 クリスのアルバムの10曲目に収録されている『波 feat. Nathan East』は、歌のないインストゥルメンタル曲で(歌詞はないがボイスは入っている)、1980年代の LA フュージョンのような見事なフレットレスベースを演奏している。
 
 「そうそう、普通のベースもコアで入ってるんですけど、その上にメロディとしてフレットレスベースもやってもらったんです。やっぱりこの曲の存在っていうのは、このアルバムの中でのターニングポイントだからこそ、僕の声も入ってるんですけど、それだけじゃなくて、ちょっとヒーリング系のような感じで、歌詞を意識するんじゃなくて、音だけを聴いて楽しめることがあればいいなと思って……。」
 
 クリスは、2013年に、木山裕策のカバー『home』で、日本で歌手デビューしたのち、2018年4月から約 2年間、音楽活動を休止していた。昨年、2020年に、全国ツアー『全国ツアー2020 〜Love is Love〜(愛を歌う)』で活動を再開した。その活動休止期間に、今回のアルバム制作に至るきっかけがあった。
 
 「活動休止して、その2年間の間に、バークリー音楽院のオンラインコースで、あらためて、リフレッシュとして勉強したんです。ボーカルを教えたいっていう気持ちもあったので、ボーカルの専門コースと、作曲、編曲、プロデュースとか、そのようなコースを全部、終えて……。」
 
 バークリー音楽院(Berklee College of Music)は、米国・ボストンにある、世界的に有名なジャズをベースとした音楽学校で、クインシー・ジョーンズをはじめ、これまでに世界的なミュージシャンを数多く輩出している。渡辺貞夫(サックス)、上原ひろみ(ピアノ)、小曽根真(ピアノ)らも卒業生だ。
 
 「で、その勉強してる間に、ディズニーのボーカルグループの日本語担当とか、あと、コリー・ハートさんの作曲とか……、Jeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ)さんと、湯川れい子先生と一緒に、3人で作りました。それは、結構、大きな経験になりました。」
 
 2019年にデビューした日本でも人気のディズニー公式アカペラ・グループ「ディカペラ」(DCappella)のデビューアルバムで、メンバーが日本語でトライした5曲の日本語歌唱指導をクリスが担当した。
 さらに、同じく、2019年にリリースされたコリー・ハート(Corey Hart)とポール・ヤング(Paul Young)とのデュエット曲『ヤング・アット・ハート』(Young At Hart)の作曲とプロデュースを、Jeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ)とともに クリス・ハートが担当した。
 『好きにならずにいられない』(Can’t Help Falling In Love )や『ネバー・サレンダー』(Never Surrender)などのヒットで知られる コリー・ハート、『エブリタイム・ユー・ゴー・アウェイ』(Everytime You Go Away)で知られる ポール・ヤング、いずれも、世界的なビッグ・アーティストだから、すごいことだ。
 
 「そうですね、なかなかないチャンスで……。もちろん、ポール・ヤングさんも、すごい人だってずっと前からわかってたし、曲も大好きだったですけど、あの……、彼の曲を作ってるときは、自分の慣れてるジャンルじゃなくて、彼らのジャンルに合わななきゃいけないなと思ってて……。しかも、皆さんが多分一番知ってる 80年代のサウンドじゃなくて、それから結構変わってて、もっと自然な音になってるとか、何を意識してるかとかいろいろ考えてやりながらやりました。ピンポイントで、”やっぱり最近のスタイルだったら、彼は多分、マンドリンが欲しいとか、サックスが欲しいとか” 考えて、で、そういうことも全部もう話さないで、そのまま曲を作って投げたら、”これだ!”” っていう感じで言ってくれて……。」
 
 「それで、そこからも、編曲のパッションが結構出てきて、やっぱりもう自分のアルバムもいつか作りたいなと思ってたけど、でも、まだ復活のタイミングも決まってなくて……。それで、ちょうど、ユニバーサルとも話して、再スタートする話になったときから全国ツアーも決まって、その全国ツアーのアレンジも、自分でバンドマスターとしてやって、そっから、”やっぱりアルバムを作りたいな” っていう気持ちでそうなりました。だから、去年(2020年)ですかね。9月に『Flashback』のレコーディングをして、で、いろんな曲もストックとしてもあったんですけど、レコーディングは、9月から3月の間に、そのアルバムを全部ね、やりました。」
 
 2018年に音楽活動を一旦休止し、その間、バークリー音楽院で、作編曲やプロデュースをイチから勉強したこと、そして、その間、ディカペラやコリー・ハート、ポール・ヤングらに関わったことで、自身のセルフプロデュースアルバムを作りたい気持ちがより強くなっていった。
 
 「正直、最初にイメージはなかったですね。アルバム作ろうとして、ツアーで歌ってた曲とか、あとちょっと新曲を作ろうかなと思ってて……。すごいレトロ系なサウンドが好きになって、シンセも買って、そのようなサウンドを作りたいなと思ってたけど、コンセプトがまだまだちょっとはっきりわからなかった……。で、まあ、コロナ禍の影響とか、世界中の問題とかも聞いたりしてて……。ツアーの間に、SNS で、”悩みはありますか?” “差別されたことありますか?” とか、いろんな悩みの話を話しているうちに、やっぱり、”人のチカラになりたい” って気持ちはまだまだ変わってないから、ちょっとサウンドが変わっても、そういう誰かのための曲を作りたい気持ちは変わらないからやろうと思って、それで『コンプレックス』っていうタイトルになりました。」
 
 「まあ、自分の弱いところと戦っているところもあるし、やっぱり皆さんも、多分、このコロナ禍の影響で悩みがあって……。だから、ヒーリングな感じとしても、このアルバムの1曲目から最後まで旅してるような感じで、沈んでるような気持ちしてる人たちに、ちょっとリフレッシュしてもらって、波を乗り越えてもらいたいって気持ちで、そっから「Breathe Again」っていう言葉をベースとして作ったんですね。」
 
 11曲目に収録されている AOR風 ピアノサウンドの曲『Breathe Again』は、このアルバムの中でもキーになっている曲だ。直訳すると「もう一度 息をする」となるが、実は、14曲目の『In The End』にも、「Breathe Again」という歌詞が出てきて、そこが耳に残る。

2 クラシックなサウンドを作りたかった 〜「なんか聴いたことあるようなサウンドだな〜ってなればいいと…」〜 
 
 クリスは、ギターもピアノも弾くが、今回、ほぼ全ての曲でアレンジも担当しているということは、いわゆる「打ち込み」と言われるコンピューターにプログラミングをして、ベーシックトラックを作るというやり方で、曲を作っているのだろうか?
 
 「そうですね、そんな感じもありますけど、どこから始まるかは、もう曲によって違いますね……。バークリーは洋楽っぽい考え方で教えてるけど、気付いたら、日本には全然違う考えがあって、なんかあの……洋楽だとやっぱり繰り返しが多いとか、歌詞はそんなに気にしなくていいみたいなこともあるけど(笑)、日本はもう全然違うルールがあって……。」
 
 アメリカの音楽では、リズムが重視されている。だから、歌詞も韻を踏んでいないといけないし、その意味というよりも、リズミックであることの方が重要で、言葉も、音の響き、サウンドとして聴いている。一方、日本人は、わかりやすいメロディに乗せた歌詞を聴いている。
 
 「そうそうそう。だから、今回のアルバムは、あえてルールを守らないように意識して、いろんな新しいチャレンジをしたいなと思って。曲を作るときは、ループから始まるか、自分のピアノから始まるか、ギターで始まるか……とか。で、全部打ち込みでベースのアレンジを作って、ある程度の形ができてから、そっからもうプレイヤーに頼んで、さらに、ちょっといろいろリアレンジしようかなと思って。」
 
 今回、クリスが自分で、ある程度アレンジされた出来上がったサウンドをまず作り、その音を、ネイザン・イーストをはじめ、実際に演奏するプレイヤーに聴いてもらい、プレイヤーは、それを聴いてさらに膨らまして演奏した。
 
 「はい、そうですね。でも、結構、大変な作業でした……(笑)。あの……、ブラジル、アメリカ、カナダと、日本からリモートでやることになって、やっぱり普通のレコーディングだったら、みんな集まってレコーディングする感じになるけど、これは、一つ一つまず理解できるように、まずベースになる音源を僕が作らなきゃいけない……。そして、たとえば、ネイザン・イーストさんのベースも入るんだけど、やっぱりガイドっていうか参考音源も作らなきゃいけないから、それを全部やってからネイザンさんの方に投げて。で、今度は、ネイザンさんの弾いたベースに合わせて、ギターをちょっと変えようか……とか、そういう感じで、結構、ず〜ともう作ってる感じはあったんですね。」
 
 アレンジを含め、サウンドづくりが本当に見事だ。曲によっては、本当に洋楽にしか聴こえないものもある。たとえば、先行配信もされた 2曲目の『monochromatic』など、ブラスアレンジが効いているし、コーラスアレンジも気持ちいい。
 
 「初ブラスアレンジだった……(笑)。」
 
 初ブラスアレンジとは思えないくらい見事だ。センスを感じる。そして、『monochromatic』は、ネイザン・イーストの 16分音符のスタッカートが気持ちいいが、シンプルだけど難しい演奏だ。
 
 「ベースはスゴかった……。すごい難しい。とにかく、ネイザンさんのべースで全ての曲が変わっちゃいましたね。最初は、わりとシンセ・ベースとかも入れてたんですけど、ネイザンさんのべースを聴いて、”コレだったら、もうちょっとアレンジ変えないとね……” とかってバンドマスターと話したりしてたんです。」
 
 アルバムは、クリスのツアーでバンドマスターも務めるギタリストの yas nakajima(中嶋康孝)と相談しながら作ったようだ。さすがに、クリスのことをよく理解しているだけあって、また、そのスキルもあるから、たとえば、5曲目の『All I Want Is You feat. Catherine Aria』など、シングルノートのバッキングも、LA 風のギター・ソロもかっこいい。
 
 「そうですね、すっごいセンスがあって……。今回、全てのプレイヤーが素晴らしくて。ドラムは海外の Josh Macintosh(ジョシュ・マッキントッシュ)って、僕のカナダのチームでスタジオに入ってくれてる、ギターもドラムもやってる方なんです。やっぱり、海外のリズム隊が欲しいなって思って、基本はリズムを海外で録ってもらって、ギターとキーボードは日本でやってました。」
 
 たしかに、ビートが気持ちよく、それが、まず、洋楽に聴こえる一番の理由かもしれない。とくに、スネア・ドラムの音など、まるで AOR サウンドで、最近なら、元シカゴのビル・チャンプリンのソロ・アルバムと同じ音に聴こえた。
 
 「ああ、そうですね。スネアの音もいろいろやりました。打ち込みとナマのドラムの音とか、結構、重ねてる。そういうところ、結構、ありました。キーボードでもドラムでも、ひとつのサウンドだけじゃなくて、今までにない新しいサウンドを探そうとして……、そのままっていうより、何か足してやろう……みたいな。まあ、最近あんまりない作業ですかね。」
 
 そして、アルバムを通して印象的な音はサックスだ。アルバムの真ん中、8曲目に収録されているサックスのインスト曲『The Interlude』はもちろん、アルバムタイトル曲でもある『コンプレックス』のソロなど他の曲でも、サウンドを決める重要な音になっている。
 
 「サックスは、ブラジルのチームですね。ブラスチームは、もう全部ブラジルで。まず、『monochromatic』にブラスを入れたいなと思って、それで、カナダチームを通して、それでブラジルチームを紹介してもらったんです。で、それをやってから、”このアルバムにはもっと入れたいな” と思って……。結構、サックスがキーになってます。すごく合ういい感じになりました(笑)。」
 
 インスト曲の『The Interlude』などは、トム・スコットやデヴィッド・サンボーンらのような、まるで 1980年代の LA フュージョンのように聴こえる。
 
 「ああ、よかった……(笑)。そうですね、そういうクラシックなサウンドが欲しいなぁと思ってて、なんか、自然に “あ〜なんか聴いたことあるようなサウンドだな〜” ってなればいいと思ってました。」

3 英語詞は自分で、日本語詞は妻でもある福永瞳が作詞 〜「今までにない感じの歌詞になればな…」〜 
 
 今回、アルバム収録曲 15曲中、英語詞が 4曲あり、英語詞に関しては、クリス自らが作詞をした。
 
 「はい、曲が先で、最後に歌詞。そのサウンドに合わせて、いい歌詞をつけようと思って。」
 
 これまでは、日本で、日本語のバラードを中心に歌ってきたのに、なぜ、多くの日本人が聴いてすぐに理解できない英語詞にしたのだろうか?
 
 「え〜っと……、まあ、バークリーの勉強で、いろいろルールとか考え方がわかって、結構、面白いチャレンジだと思いました。日本語の歌詞だったらやっぱりそのメッセージっていうか、そういうことがすごい大事だけど、英語だと、そういうメッセージより、リズムとタイミングの方が大事で、それがすごい面白くて。昔から感じてたんだけど、日本の音楽と、英語の音楽のリズムの違いと言えば、やっぱり言葉の数で、だから、あんまり無理に日本語のリズムを作ろうとかじゃなくて、”もうこのリズムだったら英語がいい” って感じで、自然にしようかなって思って。」
 
 たしかに、日本語は母音が多く、子音の多い英語のようにリズミックになりにくい。『monochromatic』や『In The End』には、日本語は乗らないだろう。仮に乗せたとしても、今のようなリズミックな感じにならず、全く違う雰囲気のものになってしまう。
 
 「う〜ん……、まあ、できるけど……、すごい難しいのは、英語を日本語にすると、音符というか言葉数が少ないから、あんまりいいメッセージが作れないっていうか……。日本語だったら、すごい長くなっちゃう。なかなかメッセージが伝わらないっていうのがあって……。ただ『Breathe Again』だけは、いいバランスにできて、日本語にしても英語にしても不自然な感じじゃない。」
 
 『Breathe Again』(作詞:クリス・ハート、福永瞳)は、英語で始まって途中は日本語になるという、英語詞と日本語詞が混在している。
 
 「この曲は、シンプルに日本語もいいなと思った。」
 
 今回、最新アルバム『COMPLEX』は、コンプレックスというタイトル通り、クリスの本当の姿が、素直に正直に表現されている。自身の性格を客観的に分析した上で、自分のコンプレックスと向き合い、「Who am I ?」「自分とは何なのか?」を突き詰め、「自分らしくありたい」「ありのままの自分でいい」というメッセージが込められたアルバムとなった。さらけだし、イメージに縛られることなく自由に、やりたいことを素直に全部やった。
 そういう意味で、「Who am I ?」の答えのひとつには、間違いなく『monochromatic』や『In The End』のような曲、サウンド、音楽がある。そして、そこに日本語詞は乗らない。クリスは「日本人は歌詞を聴いている」ということを理解した上で、今回、自身のアイデンティティのために、あえて英語詞を書いたのだろう。
 
 一方、アルバム15曲中、アルバムタイトル曲でもある『コンプレックス』(曲名は日本語表記)を含め 8曲収録されている日本語詞は(クリスと共作の『Breathe Again』を入れると9曲)、クリスの妻でもある 福永瞳 が作詞をしている。福永瞳も、もともと、シンガーソングライターとして活動していた。
 日本語詞の場合、クリスが、メッセージやテーマ、イメージを伝えて「こういう歌詞を書いて」とお願いしているのだろうか?
 
 「っていうよりも、まずメロディがあって、音源を彼女も聴いて、”この曲聴いてどんな感じ?” ってことをお互いに話し合って、まず、どういうメッセージにしたいかって話し合ってからです……。自分だけのフィルターじゃなくて、違う視点から “どんな感じになってるか” って確認した上で、”じゃあ、こういう内容がいいよね” って話し合って……。で、まあ、キーワードがあれば伝えてたんだけど、でも、ほぼ任せる感じで……、僕にはない歌詞が欲しかったから。」
 
 福永瞳が書いた歌詞には、「笑止千万」「過去の幻影」「攻守攻防 抗いの果て」「血も愛も 朽ちるまで」「黄金色 染まる 御空」など、難しい言葉もたくさん出てくる。
 
 「そう、それが好き!(笑)。やっぱり、今までの経験で、”クリスだったらこういう言葉がシンプルで合うな” っていうこともあると思うけど、でも、やっぱり、クリスが今まで歌ったことのないような言葉もパンチがあるかなって思って。で、彼女も、入れたい言葉とか、大切にしてるイメージとかもあったし、お互い、こういうバランスがちょうどいいかなと思った。やっぱり、無理矢理自分で作るより、日本人に理解しやすくて響く、そして、今までにない感じの歌詞になればな〜と思いました。」
 
 聴けば聴くほど沁みてくる不思議な魅力のある 12曲目の『迷子のサンライズ』など、洋楽っぽいリズムのメロに、日本語を実にうまく乗せてある。
 そもそも、どういう経緯で、妻の福永瞳が作詞を担当することになったのだろう?
 
 「その……スタートは、『Flashback』と『青春プリズム』だったんですね。なんか、正直、頼んだときは……、頼んだというか、”どうしようか?” って話し合った時に、”私が書くよ” って言われてたんだけど、それが、うまくいくかどうかわかんないから(笑)、”じゃあ、とりあえず1曲か2曲やってみようか” って思ってたら、『青春プリズム』がいい感じになったんで……。それで、『Flashback』もスゴイ良くて。」
 
 4曲目には、アルバムで唯一のバラード『ちゃんと 〜mother’s blues〜(COMPLEX Ver.)』が収録されている。クリスらしいバラードで、日本人の心の琴線に触れるようなメロディラインのやさしい歌だ。
 
 「『ちゃんと 〜mother’s blues〜』は、たまたま夫婦喧嘩で生まれた(笑)。で、”僕のことは気にしなくていいから、フィルターなしで、全部、自分の気持ちを書いてください” って言って……(笑)。その曲だけは、歌詞から始まった。なんとなく、尺を決めて詞を書いてもらって、それに僕が曲を付けるっていうやり方で。」
 
 クリスにも 3人の小さい子供がいるが、『ちゃんと 〜mother’s blues〜』は、子育て中の頑張ってるお母さん方に向けて、「がんばらなくていいんだよ」「そんな無理しなくていいんだよ」っていうのをさりげなく伝えてる感じがする。
 
 「その……、最初に話し合った時に、”ちゃんと” っていうキーワードだけがあったんですね。”それをキーワードに作ってください” って……。で、”ちゃんと” ってネガティブなイメージがすごいあるから……、”ちゃんとやりなさい” とか “ちゃんと仕事しないと苦労するよ” とか……、だから、ネガティブなことから、ポジティブなことに変えて、”ちゃんと泣きたいときは泣いていいよ” とか、”笑いたいときは笑っていいよ” とか、”自分のことをちゃんと大切にして” とか、そういう感じにしました。ルールとしては、あの……、自分で言えないこととか、なかなか言わないことを歌詞にする……。で、なんとなくそれ聴きながら、”少し言えた” みたいな気持ちになればいいなと思って。」
 
 日本人は、とくに「ちゃんとしなきゃ……」という意識が強い。
 
 「そうそう、どんどん重くなっちゃうからね(笑)。僕も、あんまりうまくいかないときは、その曲を聴いて、”もう少し家のこと頑張んなきゃな〜” って思います……(笑)。」

4 やりたかったことが全て出来たアルバム 〜「自分のアーティストしてのデビューですよね…」〜

 これまでも、クリスは、クリスマスソングのアルバムなどで英語詞も歌ってはいるが、やはり、どちらかと言えば、「J-POP バラードの日本語カバー」の印象が強いだけに、『monochromatic』や『In The End』など 英語詞の曲での歌声は新鮮だし、心地よい。
 1980年代のシティポップのような『Flashback』や『青春プリズム』のような、さわやかなアップテンポの曲も新鮮だが、さらに、たとえば、『GOING UNDER feat. 凪渡 (Ochunism)』や『Breathe Again』などでは、これまでになく低い音、これまでの J-POP のカバーでは聴いたことのないような音域を使っていて、それがまた魅力的だ。

 「そうですね……。あの……いちばん怖かったのは、皆さん、ハイトーンのイメージがずっとあったと思うんで……。『Breathe Again』は、バークリーの勉強をしている時に作った曲で、新しいチャレンジとして、ループみたいなものから始まって、なんか、そういうリラックスするような曲だから、無理矢理の高い声より……、正直、ちょっと福山雅治さんの声を思い出して、なんかそういう……ちょっとエルビスっぽい感じですかね……、そういう低い声でも感動できるイメージが、皆さんの中にはないのかなって思って、そういう意味でチャレンジしてみたんです。」

 実に新鮮に聴こえる。さらに、『Breathe Again』は、「Breathe」(呼吸、息)というだけあって、息を意識している歌い方も新鮮だ。

 「はい、”息” もそうですね。皆さん、わからないと思うけど、”You’re drowning all alone in the middle of nowhere Lost in the unknown just trying to catch air Breathe again” のところは、長くてホントに息ができないセリフ(笑)。ホントに、もう最後の “Breathe again” ができるかどうかみたいな……(笑)。正直、息継ぎできるところが、そのフレーズにはないから、”Breathe again” っていうタイミングが、そんな感じで(笑)。」

 この「Breathe Again」という言葉は、『In The End』でも登場する。そして、意識せずに聴いていても、「I can breathe again」のフレーズが耳に残る。

 「あっ、よかった……、そうなればいいな〜と思ってて。それは、勉強している間に、ミュージカルの曲が好きになって、『グレイテスト・ショーマン』とか……。ミュージカルって、いくつかの曲で同じメロディとか言葉が出ていたりして、そういうミュージカルみたいな作り方も、このアルバムでそれもやりたいと思ってて、だから『GOING UNDER feat. 凪渡 (Ochunism)』のコーラス・ボーカルと、『波 feat. Nathan East』のコーラスと(歌詞はないがボイスが入っている)、『In The End』のコーラス・ボーカルは、全部つながってる。近いメロディになってて、で、その “Breathe Again” って言葉が、この『In The End』にも入っているのは、そういう繋がっているストーリーになっているからなんです。」

 「なんか頭の中にはそういうストーリーが入ってて……。たとえば、いろんな悩みがあって、その悩んでる人たちは海に入っちゃって、もう沈みそうそうな感じになった時に、その声を聞いて、”やっぱりまだまだ頑張らなきゃ” と思ったら “breathe again” でまた戻って、ちょっとリセットして、そっから『迷子のサンライズ』で……(笑)、そういう感じのストーリーが僕の頭の中にあったんですね。」

 今回のアルバムで、やりたかったことは全て出来たと言う。しかし、その反面、「これまでのファンにどう思われるのか?」ということが気がかりなようだ。

 「僕の中では久しぶりにも満足した感じ。やりきったっていうか、もう本当に素晴らしいプレーヤーと一緒に、自分の伝えたいサウンドが出来たっていう感じはあったけど、でも、皆さんはどう思うのかって不安な気持ちが、まだまだあるんですね。」

 先日、6月には、コロナの影響で延期となっていた ビルボードライブツアー「Love is Life」が行われ、アルバムからの曲も披露された。

 「そうですね、いろんな人が、”すごいいいね” って言ってくれて……、まだまだですけどね。今までのカバーだったら名曲を歌ってるし、これまでのアルバムでもテーマを決めて歌詞を選んだりしてて、アレンジの話もしてたんですけど、でも、結局、他の人の作った曲だったし、歌詞のうしろに自分をちょっと隠したような感じがあって……。ずっと歌の勉強をしている気持ちもあったんですけど、100% 自分で作ったものは、今までに出したことないので……。」

 だから、ある意味、ファーストアルバムみたいな、再デビューのようなアルバムでもある。

 「そうですね、ある意味、自分のアーティストしてのデビューですよね。でも、正直、恥ずかしいっていうか、もともと、あんまり前に出たい人じゃなかったから……。でも、今回のアルバムで、とりあえずはコンプレックスのような感じで自分なりにやってみようっていう気持ちでやって、すごい満足できて、とりあえず誰かが好きになってくれたら嬉しいな〜ぐらいに思ってます。」

 いいアルバムだと思う。曲やサウンド的な部分もいいが、「コンプレックス」というタイトルの裏側に、同時に、「who am I ?」があって、その上で、「love yourself」とか「You can be yourself as you are」というような「そのままでいいよ」「ありのままでいいよ」というメッセージが強く感じられる。

 「よかったぁ……、ありがとうございます。いまは、すごいプレッシャーを感じてる人が多いかなと思って、誰でもコロナ禍の影響で、全てが変わったっていう状況になってるから、”自分はこのままでいいのか?” とか、”本当にもうこれからどうすればいいですか?” みたいな悩みが多いから、”本当にもう無理しなくて、自分らしくいればいいよ” っていうメッセージを伝えたくて、『コンプレックス』っていう曲がテーマ曲みたいになったんですけど……、そういうメッセージを大切にしました。」

 「今回のアルバムでは、何よりも “正直にしたい” って気持ちがあった。前も、カバーの時でも、そういう気持ちもあったんですけど、これまで言えなかったことをやっと言えたって気持ちになればいいなと思った。だから、今回のアルバムは、他のアルバムと比べて “ちょっと暗い” って言われるかもしれないけど、でも、やっぱりその気持ちがあるからこそ、誰かのチカラになれるかなと思って。」

 「だから、あんまり綺麗すぎる言葉を使ったりとか、”大丈夫だよ” みたいな軽い言葉をあんまり使わないで、もっと何か “心の奥の中の気持ちをちゃんと” っていうところの僕のルールっていうか、そういう目的があるんですね。自分の気持ちを、もう隠せないぐらいな感じで正直にしたかったから。」

 ところで、日本語詞を書いた 妻でもある 福永瞳 とのデュエット曲みたいなことは考えなかったのだろうか? YouTube には、クリスと福永瞳が、Boys like girls ft. Taylor Swift の『Two is better than one』をデュエットで歌っている素敵な動画もある。

 「え〜……考えてます。まだ考えてるだけ。いつかしたいなと思ってるけど、でもやっぱり、その……妻の意見としては、音楽をやったっていう気持ちがあって、でもやっぱり自分にしかできないことをやりたいっていう気持ちもあって……、だからお互いちょっとコンプレックスのところがあるんだけど、今回、やっぱり “私の詞で勝負したい” っていう気持ちがあったからこそ、今回は歌はなしにして、歌詞だけになった。これからは、考えてます。何かしたいなと思って話してる。」

5 サンフランシスコで J-POP と出会う 〜「メロディが綺麗だなと思いました…」〜

 クリスは、米国、サンフランシスコで生まれ育った。クリスの父、ラッセルは、ベースを弾いていた。

 「そうですね、ジャズ、ファンクが大好きで、ネイザン・イーストも大好き。大学時代にバンド活動やってて、ずっとファンクベースとかもやったりして、その時、ウチのお母さんと出会ったんです。仕事は、アメリカンコミックの絵とか書いてたこともあったけど、子供が生まれてからは、警察官やってました。」

 その大学時代に父と知り合ったという母、スーザンも歌がうまい。2013年に放送された里帰り番組『ホムカミ〜ニッポン大好き外国人 世界の村に里帰り〜』では、クリスと母が ジャクソン5 の『I’ll Be There』をデュエットして、見事なハーモニーを聴かせた。

 「母は歌手を目指してたっていうよりは、歌の活動を普通にずっとしてた。ネット関係のビジネスをやりながら、バックコーラスとかバンドの仕事もしてたんです。クラシックピアノも、もともとやってたけど、ボーカリストとしては、サルサをスペイン語で歌ってた(笑)。」

 そんな音楽好きな両親のもと、クリスは、小学校のころから楽器を始めた。

 「クラシック系で、フルートとかオーボエとか木管楽器をやってました。普通に好きになったんですね。小学校からフルートをはじめて、で、クラシック音楽とかすごい聴いてて、お母さんのピアノとかも聴いてて……。で、そっからジャズにも出会ってサックスも始めて……。お父さんが聴いてたスムース・ジャズとかですかね、 ネイザン・イーストさんがやってた “フォープレイ(Fourplay)” っていうバンドとか、デイヴ・コーズ(Dave Koz)とかよく聴いてたから、もう自然に僕も聴いてました。小学校、中学校のころは、フルート、オーボエ、クラリネット、サクソフォーン、ピッコロとかもやったりしてた。」

 12歳の時に、学校で日本語のクラスを選択し、そのころ、J-POP とも出会った。

 「ちょうど日本にホームステイに来る前だったんですけど、日本の音楽番組『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』がアメリカのテレビでも放送されてて、たまたま、それを見て、最初は、Kiroro さんの『未来へ』が好きになりました。そのあとは、もういろんな曲……、そのころだと、Every Little Thing さんとか、SPEED さんとか、相川七瀬さんとか……、ヴィジュアル系も流行ってた時期だったし……。」

 J-POP の何がいいと思ったのだろう?

 「メロディが違う。メロディが綺麗だなと思いました。それと、アメリカの音楽だったら、基本、ラップかロックだったけど、日本の音楽は、いろんなジャンルが混じってて、たとえば、Kiroro さんの曲だったら、ちょっと弦が入ってるとか、ほかには、ラテン系の影響のある曲なんかもあったし、そういう自由さもあった。」

 たしかに、日本のポピュラー音楽は、メロディがはっきりしていて、わかりやすく、覚えやすい。それに、スタイルが決まっているアメリカの音楽とは違い、日本の場合、歌謡曲もポップスも演歌も、いろんなジャンルの音楽的な要素がごちゃまぜに入っている。たとえば、石川さゆりの『天城越え』のイントロのギターは、間違いなくロックだ。そして、アメリカの音楽は、一見、自由に見えるが、意外にも、暗黙のうちに様式がある程度決まっている。ヘヴィメタルを歌う黒人シンガーはいないし、ヒップホップを歌う白人シンガーもいない。

 「そうそう。とくに、あの時期は自由で、日本の音楽には、いろんなジャンルが入ってる感じだった。」

 J-POP と出会い、ますます日本への興味が増したクリスは、13歳の時、夏休み中に茨城県土浦市で、2週間のホームステイを経験した。

 「たまたま、学校でホームステイのプログラムがあって、ウチのお母さんも、僕の日本へのパッションっていうか興味をすごい理解してくれてて、サプライズで “今年の夏は日本に行くよ” っていう感じで行かせてくれたんです。行ったらもうすっごい楽しかった。」

 高校生になると、バンドをはじめた。

 「高校の時に、日本人の友達から “バンドやりましょう” ってオファーがきて、そっから、バンド関係の楽器、ピアノとギターを、自分の作曲のためにやりはじめたんです。」

 そのバンドは、なんと、日本のビジュアル系のコピーバンドだった。高校時代のクリスは、その「NIKITA w/Metallic Beasts」というバンドで、日本語のビジュアル系ロックを歌っていたのだ。

 「そうですね。友達はみんなヴィジュアル系が流行ってて、GLAY さんとか LUNA SEA さんとか、そういうばっかりの音楽で、で、日本のホームステイの後だったから、アメリカに戻って、”紀伊国屋書店” があったんで、そこで、雑誌とか CDも買ったりしてた。でも、その頃は、まだギターはそんなに弾けなかったから、コピーバンドではボーカルやってた。」

 その後、ギターとボーカルを担当し、自分が作詞・作曲したオリジナル曲を演奏するバンド「LYV」を組んだ。

 「18歳のころからは、自分で作ったオリジナル曲の活動で、日本人アーティストがアメリカでライブやる時には、オープニングアクトとかもやってた。”the pillows” さんとか “雅〜MIYABI〜” さんのオープニングアクトとかやってました。」

 クリスは、今回のアルバムで、作詞や作曲、編曲、プロデュースを、突然はじめたわけではなく、もともと、そういうこと、自分で作詞・作曲・プロデュースをやっていて、だから、クリスにとっては、「突然」ではなく、むしろ自然な流れだった。

 「そうなんです。皆さんは知らないから、いきなり(今回のアルバムで)こんな感じになったと思うけど、基本、ひとりぼっちで曲を作ってて……、そんな感じでやってました(笑)。」

 しかし、そのころ作ってた曲は、今とは全く違ったようだ。

 「ヴィジュアル系っぽい感じですね(笑)。このアルバムとは全然違う感じだと思うけど(笑)。まだ、持ってるかなぁ……、そのころ流行ってた感じのロックですよね。歌う声も今とは全然違うし……、まあまあ、若くていいなっていう感じだったと思います(笑)。でも、やっぱり、そういう経験があったからこそ、今回、すごく助かった。そのころも、日本へのパッションもあったし、ちゃんと勉強してからもう一回チャレンジしたいと、ずっと思ってました。」

6 仕事がクビになったことから歌手デビュー 〜「そのころは… ホントにもうカオスでした…」〜

 地元のサンフランシスコで、そういうバンドをやりながら、空港で飛行機のメンテナンスをする仕事をしたり、日本のコールセンターでも働いていたり、2年間、サンフランシスコ市警察の警察官をやっていたこともある。そのころは、とくに歌手になりたいとは思っていなかった。

 「ただ日本に住みたいって思ってて、でも、どうやったら住めるかがわかんなくて、とりあえずいろんなことをチャレンジしてみてた。全てのアメリカでやってた仕事は、日本語を使える仕事なんです。音楽もデビューできる方法というか、デビューを通して日本に住める方法があればいいなと思いながらずっとしてたんです。で、アメリカの会社で、日本で自動販売機のセールスをしてる会社があって、その仕事でやっとヴィザも取れて、そこから普通に日本で生活できるようになりました。」

 そうして、2009年、24歳の時に来日して、日本に住むという念願が叶った。

 「自動販売機の営業設置とかメンテの仕事で全国まわってました。まだ、置いてあると思うけど……、羽田空港とか “ららぽーと” とかにも置いてもらいました。え〜っと……、アメリカにいたころは、歌手の道を通して日本に住めたらなぁ〜とは思ってたけど、でも、普通にエンジニアというか、その自動販売機の仕事で日本に住み始めることができたから、音楽は趣味でいいかなって思ってた。」

 それでも、「歌手になれたらいいな」と思っていなかったのだろうか?

 「いや……、ウチのお母さんの経験もそうだったけど、やっぱり、どっちか本気でやらなきゃいけないな〜みたいな気持ちがあったから、とりあえず僕は日本に住みたいから、全力で自動販売機の仕事をやるっていうことを決めてやってました。でも、たまたまの出会いで、いろんなミュージシャンと会って、ライブとかもやったりして、ボイストレーニングもやったりしてたんですけど、でも、番組に出るまでは、デビューしなくていいっていう気持ちだったんですね。」

 クリスは、テレビ番組への出演がきっかけとなって、歌手デビューしている。2012年3月9日に、日本テレビ系列で放送されたテレビ番組『のどじまん ザ!ワールド』の第3回に出場して、予選では SMAP の『夜空ノムコウ』、そして、決勝では、小田和正の『たしかなこと』を歌い、見事、優勝した。しかし、とくに歌手になりたいと思っていたわけでもないのに、なぜ、番組に出たのだろうか?

 「あの〜、すごい繋がりなんですけど……、ボイストレーニングをやってて、自分の声の弱いところを知りたいとか、ボイストレーニングのために、ちょっと日本人の意見を聞きたいな〜と思って、YouTube に動画をアップしたら、その動画を見てたのが、僕の妻(笑)……。それで、彼女から連絡が来て、”いつか一緒に歌う動画を作ってみようか” みたいな話になって……。」

 「そのうち付き合って、結婚が決まって、ちょうど東京に引っ越す前に、東京の銀座でデートしてたら、運命の出会いをテーマにしてる NHKの番組『ドラクロワ』に声かけられた。それで、番組に二人で出た時に、”SPITZ” さんの曲を歌ったんですけど、その前に、その番組のために仮の音源というか動画を撮ったんで、それを YouTube にアップしました。で、その動画を日テレさんが見て、そっから “『のどじまん ザ!ワールド』に出ませんか?” ってオファーが来た。」

 その番組出演が、結果的には、歌手デビューのきっかけになったが、その時にやっていた自動販売機のセールスの仕事をクビになってしまった。

 「で、その番組を、Jeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ)さんがたまたま見てて、連絡してくれた。”すごく良かったから、なんとかデビューできるようにしたいから、いろいろ紹介してみたい” って言われました。ジェフさんの方は、軽くそういう風に言ってくれてたけど、でも、同時に、番組の反響が良すぎて、逆に、自動販売機の仕事ができなくなった(笑)。どこに行っても……、自動販売機の話をしようと思っても “テレビで見たよ〜” って話になってしまって……、それで、仕事クビになりました(笑)。やっぱり、ちょっと邪魔になったというか……(笑)。それで、ジェフさんと話して、その時の事務所と、ユニバーサルも紹介してもらって……。」

 仕事クビになったから、後がなくなった。「ひとつのことを真剣にやりなさい」という母の教えどころか、「それしかない」という状況になってしまった。もう、こっちでやっていくしかない。運命的に歌手の道に導かれたような感じだ。

 「そうそう、そういう流れで、こうなったら、歌手を全力でやるしかないみたいな(笑)。」

 そのころ、ちょうど結婚も重なった。

 「はい、2012年3月に番組に出て、その年の夏にクビになって、2013年の5月にデビューしました(笑)。だから、入籍は 2012年だったけど、クビになったから披露宴とかできる時期じゃなかったから、披露宴は、デビューの 3日前になった……たまたま(笑)。今、思い出しても、そのころは……ホントにもうカオスでした……(笑)。」

 もしも、仕事をクビなっていなかったら、もしかしたら、歌手になっていなかったかもしれない。

7 自分らしくありたい、ありのままの自分でいい 〜「僕はやっぱり考えすぎるタイプだから…」〜

 2013年5月1日に、木山裕策の『home』をカバーしたシングルで歌手デビューし、その翌月、2013年6月5日に発売された デビューアルバム『Heart Song』は、いきなりオリコンの週間ランキングで 3位を記録、その年の『NHK紅白歌合戦』にも出場するなど、「J-POP の名曲バラードを日本語で歌う黒人歌手」として、一躍、人気者となった。
 翌年、2014年2月には、オリジナル曲として初シングル『I LOVE YOU』がリリースされ、ミュージックビデオが YouTube では 3,700万以上の再生を記録し、その年の紅白にも 2年連続出場。中島みゆきの『糸』を歌い、さらに、人気が高まった。奇跡の歌声と称賛され、日本の心を歌うカバーアルバム『Heart Song』シリーズは、総出荷累計 100万枚を超えている。
 さらに、翌年、2015年7月からは、約半年に渡って「47都道府県ツアー」を行い、そのツアーファイナル、2016年4月30日の日本武道館には、クリスの両親を招待した。

 「え……、まあ デビューしてから 2〜3年のころで、話はしてたけど(歌手をやっていることが)お父さんもお母さんもあんまり理解していなかったというか、リアルに感じてなかったから、そこで、やっと見せることができた。それが、歌手デビューしてから初めて見た時で、その前に見たのは、僕がヘンなヴィジュアル系のバンドやってた時だったから……(笑)。そのときは、”これは、たぶん、うまくいかないだろうな” って思ってたと思うけど、それでも、ずっと応援してくれてたから、その武道館のステージ見てすごい感動したみたい。」

 「で、サプライズで、その時に『memento』って曲を “ありがとう” ってことで歌ったんですね。結構、喜んでた(笑)。やっとカタチになったって感じで……、心配したな……みたいな(笑)。まあ、こういう人生は、なかなかないから……、”日本に行きたい” とか “警察やめた” とか “クビになった” とか、自分の予定、予想どおりな感じではなくて、ただ、もう出会いを通して、いろんなことが繋がったから良かったけど、結構、心配したかもしれないですね。」

 話で聞くのと、実際、自分の目で見るのとは、全く違う。日本でスターになったクリスを見て、両親は、さぞ嬉しかっただろうと思う。サプライズで歌われた『memento』という曲の歌詞は、ストレートに母への感謝が書かれている。サプライズでは、クリスがギターの弾き語りで歌い、両親は武道館のステージ上の椅子に座り、訳詞を見ながら聴いた。

 さらに、その年、「47都道府県ツアー」中の 2016年2月17日には、クリス自身が初めて作詞を担当したシングル『僕はここで生きていく』(高木洋一郎との共作)も発売された。初めて日本語で作詞をしたこの曲も、両親へのメッセージのような、手紙のような感じでもある。

 「なんか、あの……、そのときは、僕はもう帰化することも決まっていて、自分のストーリーを書きたいなと思いながらも、誰でも理解できるような歌詞にしたいなと思って。だから、僕の気持ちとしては、”日本にいて日本人になる” って気持ちがあったんですけれども、普通に誰かが田舎から東京に出てきたようなストーリーの設定で想像して作った感じですね。いういろんな悩みがあってたり、さびしかったり、何かいろんな壁にぶつかったりとかして、”それでも、やっぱり頑張るよ” っていうメッセージですね。そういう方が理解しやすいかなって思いました。」

 そして、翌 2017年に日本国籍を取得し、日本人となったクリスだったが、2018年4月から、耳の不調がきっかけで、音楽活動を一旦休止する。

 「そうですね……、相変わらず、僕はいろんなカオスな状況になってた感じで(笑)、その…… 2回目の “47都道府県ツアー” の最中に耳がちょっとおかしくなって、耳鳴りになったりして、やっぱりステージ立つことがすごい難しくなって、休まないと良くならないと言われたんです。」

 半年で47都道府県をまわるツアーというのは、一般の人が考えるよりも、実際はずっと大変だ。平均で毎週 2本やらなければならないし、移動もあれば、その間、テレビやラジオの出演、取材などもある。しかも、デビュー以来、毎年、アルバムを 2枚リリースしていたから、そのレコーディングなども入ってくる。相当、忙しかったのだと思う。だから、耳の不調も「そろそろ休みなさい」というサインだったのかもしれない。

 「そうですね、やっぱり休まなきゃいけなかったし、ちょうど二人目の子供も生まれたし、僕もちょっと新しいチャレンジもしたいなと思ってて、もう、それだったらトータルで考えちゃうと、やっぱり休みの間に子供と一緒に過ごす過ごしながらも、別の勉強もできたらな〜と思って、そのバークリーに入って……。まあ、”ただ休んでます” っていうより、やっぱり何か形になればいいなと思いました。」

 その間のバークリーでの勉強や、ディカペラ、コリー・ハートらとの活動も、今回のアルバムに繋がった。

 「だから、新しいチャレンジして、それプラス、本当にもう耳が良くなるかどうかわからなくて、そのときの考えとしては、”もし良くならなくても、別の方法で音楽ができる” みたいなこともちょっと探したいなと思って、そのプロデュースとか、作曲の仕事の勉強もしました。」

 最近の音楽もよく聴くと話す。先日、6月18日には、TBS系のテレビ番組『オオカミ少年』に出演し、番組内の「歌うま外国人」というコーナーで、優里の『ドライフラワー』を歌唱して話題となった。他にも、最近、お気に入りのシンガーがいる。

 「あ〜、やっぱり、藤井風さんがスゴイいいなと思ったんですね。自然に音楽を楽しんでるっていう気持ちがすごいあって、僕もそのような感じでもっとしたいなと思ってます。だから、英語で歌いたい時は英語で歌う、カバーしたいときにカバーをする、踊りたい時は踊る……みたいな(笑)。藤井風さんは、深く考えてないで自然に楽しんでるところがあって、僕はやっぱり考えすぎるタイプだから、そんな感じでもっとしたいなと思いました。ウチの子供も、そんな感じに、自然に音楽を楽しめるようになればいいなって思いますね。」

 自然に、自由に作曲をした今回のアルバム収録曲を聴くと、いずれの曲も、日本人が好きなメロディになっていることに気が付く。たとえ、メロディが洋楽っぽいテンションノートに行ってたとしても、どこか、日本人好みだったりする。たとえば、『monochromatic』にしても、洋楽に聴こえるが、日本人が好きな洋楽のメロディーだったりする。

 「あ〜、よかった……。やっぱり、日本の影響はスゴイ大きい。皆さん、たぶんイメージないと思うけど、僕はもう、10代から日本の音楽で育ったから(笑)。」

 アルバムの 1曲目『Prelude To Tomorrow』のサビ、「行き先も分からぬ旅路に 歩調は乱れを増す」とか、すごく日本人が好きなメロディで、音がブルーノートに行ってるところも含めて、日本人が哀愁を感じるメロディになっている。

 「あ〜、よかった〜。いままで、いちばん心配なところだった……(笑)。”どこまで” っていうのがわからなくて……、日本人らしいところと、日本人らしくないところと、うまくバランスが取れたらなと思ってたたけど、どっちもやりすぎる可能性があって……。でも、もう、やっぱり確認しないで、考えすぎないで、とりあえずやるっていう気持ちで決めたから、それ聞くとすごい嬉しい。なんとなく、目的の方向には当たったっていうことですから。」

 日本のポップスで育ったアメリカ生まれの黒人で、いまは日本人になったクリス・ハートが作る日本のポップス、こういうポップ・アルバムは、日本人では クリス・ハートにしか作ることができないかもしれない。洋楽も日本のポップスとしてうまく昇華している。まさに、One and only だ。

 「なんか……、まあ、スタイルじゃないけど、今 ちょっと目指してるところは “安全地帯” さんというか、玉置浩二さんの広いジャンルっていうか、そのようなことが、結構、影響になっている。なんか、そのスタイルそのままの感じじゃなくて、でも、やっぱりクラシックの曲やってもおかしくない、パンクの曲でも、アコースティックでも……ってところが、結構、影響になったと思った。とにかく、玉置浩二さんとか小田和正さんとか、そういう影響がずっとあったから、多分、そのような流れでいきたいなと思ってるんだけどね。」

 ところで、これまでのジャケット写真は「帽子をかぶった横顔」というのが、クリスのお決まりだった。ところが、今回のジャケットでは、初めて正面から、しかも全身の写真になっている。そこにも、コンプレックスに向き合い、「自分らしくありたい」「ありのままの自分でいい」というアルバムのテーマが垣間見える。

 「写真撮影も、基本苦手っていうか……、でも、自然な気持ちをやっぱりもう見せるしかないっていう感じで、子供のことを考えたりとかして……。」

 「あの……、もう、結構、昔の話だけど、アルバム『Heart Song』の時に、その時は入らなかったけど、MISIA さんの『Everything』って曲もレコーディングしたんです。でも、レコーディングの時に、インスピレーションを考えても全然出てこなくて、その時、ジェフ・ミヤハラさんからのディレクションで、”じゃあ、奥さんの写真を見ながら歌ってください” って言われたんですけど、スゴイ恥ずかしい!(笑)。すごい恥ずかしいけど、やっぱりそれを隠さないで正直だったらこんな感じになるんだって気づいてから、そんなルールになりました。ハッピーな気持ちでも、悲しい気持ちでも、そのまんま正直に見せようっていう気持ちになりました。」

 今回のアルバム『COMPLEX』が、新たなスタートだとして、今後は、どういう方向に向かっていくのだろうか?

 「以前よりも、もっと自由にしたい……。うん、あんまり考えすぎないで、作りたい曲があれば作る、自分の声に関係ないプロジェクトもやりたい感じだったらやる……。で、やっぱり、それプラス、これからのアーティストのサポートをしたいなと思って。やっぱり自分の活動だけじゃなくて、今のアーティストたちも、すごい大変な状況で、何がチカラになれるところがあれば……。」

(取材日:2021年6月23日 / 取材・文:西山 寧)




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クリス・ハート 日本武道館 LIVE 2016 “僕はここで生きていく”
~ 47都道府県 Tour 2015-2016 ~続く道~ FINAL~ より

“BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA with CHRIS HART”
Live Streaming 2020

クリス・ハート – 「僕はここで生きていく」MUSIC VIDEO (Full Ver.)

クリス・ハート「I LOVE YOU 2020 Ver.」リリックビデオ

クリス・ハート – 糸