園まり「逢いたくて逢いたくて」
園まり「逢いたくて逢いたくて」(3:43) Key=B B面「あんたなんか」(園まり/植木等)
作詞:岩谷時子、作曲:宮川泰、編曲:森岡賢一郎
1966年(昭和41年)1月5日発売 EP盤 7インチ・シングルレコード (45rpm、ステレオ)
SDR-1163 ¥330- polydor / 日本グラモフォン
<もと歌>
ザ・ピーナッツ「手編みの靴下」(2:50) B面「二人の高原」
作詞:竹内伸光・岩谷時子、作曲:宮川泰、編曲:宮川泰、、演奏:シックス・ジョーズ・ウイズ・ストリングス
1962年(昭和37年)10月20日発売 EP盤 7インチ・シングルレコード (45rpm、ステレオ)
EB-7150 ¥290- KING RECORD
1960年にNET「あなたをスターに」で優勝し、東洋音楽学校在学中に渡辺プロダクションのオーディションに合格、1962年にシングル『鍛冶屋のルンバ』でポリドールよりレコードデビューした園まりの21枚目のシングル。大ヒットとなり、同年6月には、園まり自身も歌手役で出演する同名タイトルの日活映画が公開。また、当時、同じく渡辺プロダクション所属だった中尾ミエ、伊東ゆかりとともに「三人娘」と呼ばれ、フジテレビ「レッツゴー三人娘」、日本テレビ「シャボン玉ホリデー」、「スパーク・ショウ」などに3人でレギュラー出演し人気となる。NHK紅白歌合戦でも、1963年と1964年に、この3人で出演(その後はソロとして出場し計6回連続出場)。
ソロとしては、洋楽ポップスの日本語カバーを多く歌い、『マッシュ・ポテト・タイム』『太陽はひとりぼっち』『女王蜂』『花はどこへ行った』などがヒット。歌謡曲路線に転向し、NHK「きょうのうた」にもなった1964年発売 15枚目のシングル『何も云わないで』が大ヒット。翌1965年(昭和40年)には第16回NHK紅白歌合戦にソロとして出場し『逢いたくて逢いたくて』を歌う。その後も、『夢は夜ひらく』『やさしい雨』『帰りたくないの』『愛は惜しみなく』などがヒットし、映画やテレビドラマ、CM等にも数多く出演する。
1990年代の休業期間を経て、2001年からは再び活動を始め、2005年には40年ぶりに「三人娘」としての活動も再開し全30公演のコンサートツアーを行う。2006年には、25年ぶりのシングル『2人はパートナー』を発売。2007年には、昭和歌謡曲12曲を題材にした短編オムニバス映画『歌謡曲だよ、人生は』の第9話(主演:妻夫木聡)に『逢いたくて逢いたくて』が起用された。2011年には、シングル『もう一度逢いたくて』がテイチクエンタテインメントから発売され、6月〜7月の「NHK ユアソング」にもなる。現在も、テレビやコンサート等で活躍中。幼少のころは、キング児童合唱団に所属し、本名の薗部毬子で童謡歌手、少女モデルとしても活動していたこともある。
実は、この曲は、リメイクされた作品で、もとは、ザ・ピーナッツが 1962年(昭和37年)にシングルとして発売した『手編みの靴下』(作詞:竹内伸光・岩谷時子/作編曲:宮川泰)という曲でした。メロディは変えずに、園まり向きの歌詞に書き換えられ、『逢いたくて逢いたくて』というタイトルで、園まりが歌いヒットしました。
カバー曲の場合、オリジナル歌手よりもカバーした方がヒットすることも少なくありません。ボブ・ディランの『Blowin’ in the Wind(風に吹かれて)』は PPM が歌ったことでヒットし、ディランも注目されるようになりました。
カバーが昔から盛んな欧米では、そういう例は数えきれないくらいあって、だいたい、ビートルズだって、『Rock’n’ Roll Music(ロックン・ロール・ミュージック)』『Twist And Shout(ツイスト・アンド・シャウト)』『Mr. Moonlight(ミスター・ムーンライト)』などなどカバーヒットがたくさんありますし、カーペンターズの『Sing』や『Superstar』、ビーチ・ボーイズの『Surfin’ USA』、アレサ・フランクリンの『Respect』、サンタナの『Black Magic Woman』……なんかもそうです(思いつくままなので脈絡ないです)。
映画『ボディーガード』で大ヒットした ホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You(オールウェイズ・ラヴ・ユー)』(1992年)も、もともとは、人気のカントリーシンガー、ドリー・パートンの1974年発売のシングル曲で、それを、翌年アルバムでカバーした リンダ・ロンシュタットのバージョンをもとにしたのがホイットニー版。
ドリー・パートンは、”ど” カントリーシンガー(作詞・作曲もしている)なので、ホイットニーの感じとはゼンゼン違いますが、アメリカのトラディショナルなカントリーミュージックの良さがありますし、実際、1974年には、カントリー・チャートの1位になるほどヒットしましたが、しかし、ホイットニーの規模には及びません。
そういう、オリジナルもヒットしたけど、それを上回る大ヒットになった例もたくさんあって、ベイ・シティ・ローラーズの『I Only Want To Be With You(二人だけのデート)』、セリーヌ・ディオンの『The Power of Love(パワー・オブ・ラヴ)』……なんかがそうですし、ジョン・デンバーの『Take Me Home, Country Roads(カントリー・ロード)』などは、とくに日本では、オリビア・ニュートンジョンのカバー版の方がよく売れました。
日本はと言えば、このコラムの第17回で書いた、三木聖子(石川ひとみ)の『まちぶせ』みたいに、カバー版の方がオリジナルだと思われている曲もたくさんあります。
美空ひばり『悲しい酒』(北見沢惇)、門倉有希『ノラ』(木下結子)、柏原芳恵『ハロー・グッバイ』(アグネス・チャン)、アリス『今はもうだれも』(ウッディ・ウー)、藤山一郎『影を慕いて』(佐藤千夜子)、芹洋子『四季の歌』(いぬいゆみ)、村田英雄『人生劇場』(楠木繁夫)、岩崎宏美『すみれ色の涙』(ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)、イルカ『なごり雪』(かぐや姫)、内山田洋とクールファイブ『中の島ブルース』(秋庭豊とシャネル・フォー)、牧村三枝子『みちづれ』(渡哲也)、敏いとうとハッピー&ブルー『わたし祈ってます』(松平直樹とブルーロマン)や『よせばいいのに』(三浦弘とハニーシックス)……そりゃもう、たくさんあります(思いつくままなので脈絡ないです……)。
中でも、この『逢いたくて逢いたくて』のように、メロディを残し、歌詞を書きなおしてヒットしたパターンの曲が何曲かあります。
1971年のヒット曲『また逢う日まで』は、1970年に、ズー・ニー・ヴーがリリースした『ひとりの悲しみ』のリメイクですし、平和勝次とダークホースの『宗右衛門町ブルース』も、もとは、北原謙二の『さよなら さよなら さようなら』という曲です。
1966年に園まりが歌った『夢は夜ひらく』だって、その前に、作曲した曽根幸明が『ひとりぽっちの唄』(作詞も川上貞次名義の曽根幸明)として発売されていますし、園まりのあとにも、緑川アコ、藤田功(曾根幸明)と愛まち子、梅宮辰夫、バーブ佐竹ら、多くの歌手にカバーされましたが、1970年発売の『圭子の夢は夜ひらく』が最も有名で、藤圭子の代表曲にもなりました。
いずれも作詞者も歌詞も違っていて、だいたい『○○の夢は夜ひらく』という曲は、すごいたくさんあったりします。
『また逢う日まで』も『夢は夜ひらく』も、そして『逢いたくて逢いたくて』も、いずれも、メロディは変えられていません……。楽曲と歌手には相性がありますから、つまり、最初売れなかったとしても、「これは本当にイイ曲だから、なんとしてでもヒットさせたい!」と強く思ったヒトがいて、行動したヒトがいたというコトです。それほどまでに魅力的なメロディだというコトになります。
『逢いたくて逢いたくて』の場合、当時、ナベプロの制作部長だった松下治夫というヒトが作曲をした宮川泰に、「『手編みの靴下』の歌詞を変えて、まりちゃんに歌わせたら?」と勧めたコトがきっかけで、岩谷時子に園まり向きの歌詞を新たに作った……というのが真相のようです……。
ところで、ヒット曲となるには、5つの条件が必要です。「メロディの良さ」「歌詞の良さ」「楽曲を引立て、耳に残るアレンジ」「魅力的な歌声」、そして「タイミング」の5つです。ただし、それらが、それぞれ単体ですぐれているだけではダメです。
もちろん、それぞれに良くなければイケないのですが、大事なのは、それら5つ全ての相性です。『逢いたくて逢いたくて』の場合、『手編みの靴下』の歌詞や、ザ・ピーナッツの歌唱が悪かったのではなく、ただ単に、これら5つの要素がピッタリとはまっていなかっただけです。ヒット曲となるには、この5つの偶然とも言えるような出会いが必要です。
で、さっき、「メロディは変えなかった」と言いましたが、逆に言えば、実は、これら5つのうち4つも、つまり「メロディ以外は全て変えた」(変わっている)のです。
岩谷時子が書き直した歌詞とタイトルと、『手編みの靴下』では作曲とともに編曲もしていた宮川泰が「これはかなわない」と唸った森岡賢一郎による編曲、そして、1966年(昭和41年)から2年連続で「マルベル堂」のブロマイド売り上げ女性歌手第1位で、パーフェクトな美人なのにどこかキュ〜トなカンジもあって、みんなメロメロだった「まりちゃん」こと園まりの声と歌い方が、『逢いたくて逢いたくて』のヒットには必要だったのです。
当時、園まりは、22〜23歳くらいでしたが、清純なイメージもありながら、不思議な色気のある独特の歌い方で、なんだかドキドキしたものです。最近、歌っているのを聴いても、その歌声のイメージは全く同じで、変わらない「園まり節」で聴かせてくれます。
とにかく、声が魅力的ですね〜、最初の「♪愛した人は あなただけ わかっているのに〜」で、モ〜やられてしまいます。
すごく特徴的なのは、歌う時に、あまり口を縦に大きくあけないコトです。本来、「あ」とか「お」をハッキリ発音するには、口を縦に大きくあける必要があります。ところが、まりちゃんの場合、「あ」とか「お」でも、ほとんど縦には口が開かず、むしろヨコ……。でも、言葉は、すごくクリアに響くからフシギです……。それが「園まり節」のヒミツのひとつでしょうか……。
そして、宮川泰を唸らせたという森岡賢一郎のアレンジも実にイイんです。イントロと間奏の、ちょっと最近では聴いたことのないような、ぶっとくて、キラキラして、バリバリいってるトランペットもイイですが、メロディのウラや隙間を埋めるストリングスが見事です。聴き手に意識させずに、つまり、歌を邪魔せずに、自然に盛り上げています。宮川泰も、コレで「かなわない!」と思ったのではないでしょうか……。
もちろん、宮川泰による『手編みの靴下』のアレンジも、おシャレで悪くはないのですが、サラッとしていて、コッチを聴いてしまうとインパクトが違います。
曲としては、いわゆる当時のムード歌謡調ですが、ポップスのセンスが効いていて、インパクトがあって耳に残るという、まさに流行歌のお手本のようです。クレジットはありませんが、おそらく、演奏も、森岡賢一郎が率いていた「ケニー・ウッド・オーケストラ」かと思われます。
そんな、55年近くたった今でも、ちょいちょい耳にする名作『逢いたくて逢いたくて』ですが、実は、モデルとなった曲があります。作曲をした宮川泰は、1947年(昭和22年)に平野愛子が歌ってヒットした『港が見える丘』をイメージして作られたメロディだそうです……。そう言われると、なんとなくリズムの感じとか雰囲気が似てるような気がするでしょ?
ちなみに、『港が見える丘』を作詞・作曲した東辰三は、『翼をください』『瀬戸の花嫁』『学生街の喫茶店』『ひなげしの花』『二人でお酒を』『酒場にて』『世界は二人のために』『恋する夏の日』『遣らずの雨』『空港』……などなど……モ〜言い出したらとまらないくらいヒット曲をたくさん手掛けた、作詞家の山上路夫のお父さんだったりします。
で、問題の書き直された歌詞ですが……。
まず、『手編みの靴下』は、若さ故の一方的な恋心で、妄想しながらくつ下を編んじゃう片思いの歌です。一方、『逢いたくて逢いたくて』は、失恋の歌ですが、やはり純朴で乙女なカンジです……。なんといっても、タイトルの「♪逢いたくて 逢いたくて」が、三番になって初めて出てくるところがイイですね。ココでグッと掴まれます。
おもしろいのは、『手編みの靴下』の歌詞の「心の糸」という箇所は、『逢いたくて逢いたくて』でも同じく「心の糸」となっているところです。メロディに乗せた時の音の響きが良かったコトと、「心の糸がむすべない」というフレーズを思いついてしまったからではないかと思われます。
同じようにに、サビの「だけど」も、そのまま使われています。しかも、3倍になって。
ちなみに、最近の若いコ、20代〜30代のコに『逢いたくて逢いたくて』と言うと、かなりの確率で「あ〜西野カナちゃんね!」と言われちゃいます……(2010年に発売されて大ヒットした西野カナのシングルで『会いたくて 会いたくて』のコト)
それで、岩谷時子というヒトは…………
モ〜どんどん長くなるので、岩谷時子とか、宮川泰とか、森岡賢一郎とかのハナシはヤメておきます……。(すでに長すぎるけどね)
(2020年4月8日 西山 寧)
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