第20回 八代亜紀「なみだ恋」(1973年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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第20回 八代亜紀「なみだ恋」(1973年)

逢えばせつない 別れがつらい
しのび逢う恋 なみだ恋 ……
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八代亜紀「なみだ恋」

八代亜紀「なみだ恋」(3:09) Key=F B面「雨のカフェテラス」
作詞:悠木圭子、作曲:鈴木淳、編曲:小谷充、演奏:テイチク・オーケストラ
1973年(昭和48年)2月5日発売 EP盤 7インチ・シングル レコード (45rpm、ステレオ) ¥500- 
SN-1300(TD-4200) テイチクレコード

 中学卒業後にバスガイドとなり、その後、15歳で熊本から上京し、銀座のクラブ歌手を経て、1971年にシングル「愛は死んでも」でデビューした八代亜紀の4枚目のシングルで、初ヒット作。レコード大賞で歌唱賞を受賞し、この年の紅白にも初出場。その後、「もう一度逢いたい」「おんな港町」などリズム演歌と言われた曲がヒットし、とくにトラック野郎たちに人気となり、「八代観音」「八代亜紀命」と書かれたデコトラが多く見られるようになった。1979年には「舟唄」、1980年には「雨の慕情」が大ヒットし、国民的スターとなる。
 子供のころは、ジュリー・ロンドンに憧れ、ジャズ歌手を目指していたこともあり、2012年には、ジャズアルバム「夜のアルバム」を発表し、翌2013年にはニューヨークの老舗ジャズクラブ「Birdland」でライブを行う。その後「フジロックフェスティバル」への出演や、2016年には、モンゴルのウランバートルにある「国立オペラ バレー劇場」や、モンゴルの大草原でコンサートを行うなど幅広く活躍。2017年にも、ジャズアルバム第2弾「夜のつづき」を発売し、ジャズ歌手として「ブルーノート東京」や「東京ジャズ」などにも出演。また、全国の女子刑務所に慰問にまわったり、ペルーに工業技術学校を設立したりと、その活躍の場を広げている。
  その明るく陽気で、おおらかで優しい人柄にも定評があり、画家としての顔も持つ。


 エビがキライです。その怪獣のようなビジュアルのまま食べるというコトも好きではありませんが、味や匂いがキライです。アレルギーではありませんし、食べたコトはあるので「食わず嫌い」でもありません。同じ理由で、カニもキライです。
 おそらく、甲殻類特有の「うまみ」みたいなものが、みなさんは大好きで、ワタシはキライなんだと思います。だから、「カニかま」みたいなイミテーションは最悪です。だって、その「うまみ」を人工的に凝縮させていますから。
 よく「え〜?こんなオイシイもの食べないの〜?かわいそぉ〜!」などと言われますが、べつに可哀想ではありません。だって、キライですもん…。

 一般的に、日本人はエビが大好きです。日本中で「幕の内弁当」を 1,000回近く(タブン…)食べた経験から言うと、「幕の内弁当」におけるエビの登場率は極めて高いです。定番の「みんな大好きエビフライ」はもちろんですが、ほかにも「てんぷら」や「エビチリ」、中には、和え物やシウマイなどにも潜んでいたりします。

 なんでも、日本人1人が、1年間に食べるエビの量は、およそ200尾とも言われています…。ちなみに、総務省統計局の家計調査、1年間にどのくらいエビを食べているのかを県庁所在地別に調査した最新のデータによると、トップは和歌山市で、最下位は那覇市だそうで、理由はよくわかりません。

 でも、沖縄にだって「ゴーヤがキライ」というヒトはいますし、世の中には「漬物がキライ」という日本人だっています。ある「ナスぎらい」の知り合いは、言葉に出すのもイヤというほどで、絶対に「ナス」と言いませんし、「那須への出張に行かなかった」というくらいの強者です。

 つまり、何が言いたいかというと、人の好みは千差万別というコトです。同時に、それは「好き嫌い」であって、「良し悪し」ではありません。べつに、エビやゴーヤやナスが、何か悪いワケではありません。

 音楽も、そういう「食べ物の好み」と似ています。
 音楽は、彫刻や絵画と同じく芸術であり、表現手段ですから、絶対的な評価基準は存在せず、「良い音楽」も「悪い音楽」もありません。ただ「好き嫌い」があるだけです。
 「うまい」「ヘタ」はあるかもしれませんが、「うまいければ、必ず好きになる」というワケではありませんし、「ヘタウマが魅力」というモノだってあります。
 どんなに売れているアーティストや曲でも、ワタシにとってのエビやカニみたいに、どうしても好きになれない音楽が、誰にでもあるでしょう…。その音楽が、なにか「悪い」わけではありませんし、好き嫌いに理由はありません…。

 ある有名ミュージシャンが、「単純にうまくなることと、プロになることは、根本的に違う」と言っていましたが、全くその通りで、たとえば、歌がうまければ歌手になれるというワケではありません。だって、私たちは「うまい音楽」を聴いたり買っているわけではなく、「好きな音楽」を聴きたいからです。

 そして、音楽にも「食わず嫌い」はありますし、「好みが変わっていく」というコトもよくあります。「子供のころはキライで食べられなかったけど、大人になって大好きになった」というのと同じように、歳を重ねるに連れて、好きになる音楽もあります。

 ワタシにとって、八代亜紀とは、そういう歌手です。
 若い頃も、もちろん、ヒット曲を耳にして知ってはいましたが、とくに何とも思っていませんでした。が、だんだん、その良さがわかるようになると、関心を持っていなかった頃をもったいなく感じてしまいます。今では、モ〜スト・フェイバリットな歌手のひとりです。

 この『なみだ恋』を、デビュー曲だと思っているヒトも少なくないようですが、実は4枚目のシングルです。
 当時、23歳、八代亜紀にとって初めてのヒット曲で、この年の「日本レコード大賞」で歌唱賞を受賞し、第24回「NHK紅白歌合戦」にも初出場を果たすという出世作となります。八代亜紀本人も「環境が劇的に変わって、1年に休みが2日しかなかった」と言っています。
 当初は、カップリングの『雨のカフェテラス』がA面になる予定で制作されていましたが、どこかのタイミングで、誰かの英断があったのでしょう…。一度決まったものを覆すのには勇気がいります…責任も問われますし。

 作曲の鈴木淳は、もともと作詞家の有馬三恵子と結婚しており、その夫婦コンビで、1967年(昭和42年)伊東ゆかりに提供した『小指の想い出』をヒットさせますが、のちに離婚し、この『なみだ恋』を作詞した悠木圭子と再婚しています。
 つまり、この『なみだ恋』も、夫婦コンビによる作品。

 悠木圭子は、最初、藤田佳子の芸名で女優としてデビューしたのち、1969年(昭和44年)小川知子の『さよならがこわいの』で作詞家デビューしていますが、その作曲は鈴木淳です。ちなみに、二人は偶然にも同郷。

 つい先日、2020年2月2日には、『なみだ恋』の歌碑が、鈴木淳・悠木圭子の出身地である山口県防府市の防府天満宮にできました。除幕式には、この2人と八代亜紀も参加し、八代は『なみだ恋』を歌っています(ニュース映像があるので、最下部に付けておきます)。鈴木淳は、実は、この防府天満宮の宮司の子息で、高校卒業までは同天満宮で過ごしており、現在の宮司の叔父にあたります。

 もちろん、八代亜紀の代表曲となった『舟唄』や、最大のヒット曲『雨の慕情』、リズム演歌の『もう一度逢いたい」など、名曲は多くありますが、このゆったりした3拍子の『なみだ恋』が、真骨頂ではないでしょうか。

 耳に残る切ないメロディと、七五調で少ない文字数でありながら、雨の新宿での情景が浮かぶ歌詞に加え、そのアレンジも見事です。決して歌の邪魔をせず、聞き手に意識させずに自然に盛り上げている、複雑で緻密な動きをする歌中のストリングスはもちろん、イントロのサックスとストリングスを聴いただけで、すでに切ないキモチになります。

 しかーし、やはり、八代亜紀のハスキーな歌声と、エモーショナルで、発音にクセのある独特な歌い方に、心を揺さぶられ、グッときます。

 実は、もともとの1973年に録音されたバージョンの他に、アレンジも、演奏も、歌唱も、忠実に再現しながら、今の録音技術でレコーディングしなおした「2002年バージョン」という音源があるんです。というか、最近のベスト盤などに収録されているのは、だいたい新しいバージョンだと思われます。

 聞き比べると、1973年バージョンの方が、やや声が若く可愛らしくフレッシュな感じがしますが、2002年バージョンだけ聴けば、それがオリジナルだったかのように感じます…。30年近く経っているのに、歌の印象が変わらないというのはスゴイことです。
 むしろ、楽器の音もボーカルの音質も良くなってキレイな音質で聴けるし、歌い方の印象は変わらずに、歌の説得力が増している気がしますから、何の不満もないどころか大好きです。

 それぞれの特徴を挙げると、1973年バージョンは、当初、B面予定ということもあり、数回しか歌っていないらしく、その分、重たくならず、サラッと歌われているという魅力があります。あと、「カーッ!」というパーカッション(ヴィブラスラップの音)がデカイです。
 一方、2002年バージョンは、イントロのストリングスやサックスの音が、1973年と比べて圧倒的に綺麗ですし、ボーカルも、ダイナミックレンジが広くなった感じで、響き豊かに録音されています。コンプが効いていて、ボーカルがぐっと前に来ていて、ブレスもはっきり大きく聴こえて、よりエモーショナルな感じが心に迫ってきます。

 これだけの名曲ですから、当然、多くの人にカバーされており、石原裕次郎、美空ひばり、松山恵子、藤圭子、天童よしみ、テレサ・テン、二葉百合子、青江三奈…、最近では、パク・ジュニョンや水森かおり…などなど40人以上にもなりますが、とくに、巻き舌で歌う藤圭子バージョンには、八代亜紀とは、また違った良さがあり、伝わってくるものがあります。

 今年は、八代亜紀の50周年記念イヤーにあたり、3月11日には、その記念第1弾シングルとして、『なみだ恋』や『舟唄』など、自らのヒット曲のタイトルが歌詞にちりばめられた『ワタシウタ』という曲が発売となるようです。
 すでに、1月から、日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」のエンディングテーマとして流れているようですが、本人いわく、「演歌ロック風な感じ」とのことです…。(オマエ!聴いてないのか!)


(2020年2月 西山 寧)

八代亜紀『なみだ恋』歌詞を見る

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八代亜紀 ユニバーサルミュージック(現、所属レコード会社)

八代亜紀 オフィシャルサイト

ウィキペディア 八代亜紀


2020/02/03 山口新聞 記事 「なみだ恋」歌碑完成


「八代亜紀さん出世作「なみだ恋」歌碑完成…山口・防府」読売新聞オンライン