第16回 小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」(1972年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

色あせない昭和の名曲
便利でないことが、しあわせだった、あのころ …

週刊・連載コラム「なつ歌詞」

時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第16回 小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」(1972年)

入江の向うで 見送る人たちに
別れ告げたら 涙が出たわ ……
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小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」

小柳ルミ子 「瀬戸の花嫁」(3:16)
作詞:山上路夫、作曲:平尾昌晃、編曲:森岡賢一郎  B面「それでも川は流れる」
1972年(昭和47年)4月10日発売 7インチ シングル レコード (45rpm、ステレオ) ¥500-
L-1080R ワーナーブラザース・パイオニア

宝塚音楽学校を卒業後、1970年、NHK連続テレビ小説「虹」で女優としてデビューし、翌1971年に、作曲家・平尾昌晃のプロデュースによる「わたしの城下町」で歌手デビューした小柳ルミ子の4枚目のシングル。1972年の「オリコン年間シングル売上チャート」で第1位を記録し、第14回「日本レコード大賞」で歌唱賞、第3回「日本歌謡大賞」では大賞を受賞。
デビュー曲「わたしの城下町」は、160万枚を超える大ヒットとなり、1971年の「オリコン年間シングル売上チャート」で第1位を記録し、第13回日本レコード大賞最優秀新人賞も獲得。その後、この「瀬戸の花嫁」のほかにも「お祭りの夜」「京のにわか雨」「漁火恋唄」などがヒットし、当時、天地真理、南沙織とともに「新三人娘」と呼ばれ、1970年代を代表するアイドル歌手となった。その後、1970年代後半から80年代にかけては、「星の砂」「泣きぬれてひとり旅」「来夢来人(ライムライト)」「お久しぶりね」「今さらジロー」などがヒット。NHK紅白歌合戦にも、デビューの1971年から1988年まで18年連続出場している。


 最新の寅さん映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』を見て来ました。
 いろいろと意見や批判もあるようですが、ワタシは、十分に楽しませていただきました。寅さんを全く知らない若者はともかく、全作見ているようなマニアはもちろん、『男はつらいよ』を何本か見たコトのあるヒトであれば、懐かしいキモチにもなり、あたたかいキモチにもなる映画だと思います。

 ”いま”のストーリーの中に、回想シーンとして寅さんが登場するのですが、ストーリー上の主人公でもないのに、寅さんの存在感があまりに大きく(ある意味、主人公ですが…)、見たあとも、その日、一日、寅さんのカオが、まるで音楽の一部が頭にこびりついて離れない時のように、アタマの中でずっとグルグルしていました。
 ちなみに、音楽が頭の中でグルグル反復してしまうコトを、英語では「イヤーワーム(earworm)」といいます。最近では、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が、それを起こしやすいことから、「ディラン効果」とも言われているようですが、日本語では、ひとことで言う名詞はないですね…。

 そんなコトはともかく、映画のディテールに関して、「そんなハズはない」とか「それはおかしい」とか、とかく文句を言うヒトがいます。クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』が公開された時にも、「事実と違う」だの「単純化しすぎている」だの言っていたヒトもいましたが、そもそも、映画とは創作物であり、ファンタジーで、エンタテインメントです。そんなコトよりも、日常を忘れ、2時間、映画館で楽しませてくれればそれで良いのです…。

 で、今回、寅さん最新作を見ていて感じたコトは、以前にもこのコラムで書きましたが、やはり、山本直純による音楽のチカラの大きさでした。「さくらが寅さんを見送る」というなんでもないお決まりのシーンで、オーボエ(だと思う)の演奏で、この主題歌のメロディが流れた時、ただそれだけで涙が出てきてしました…。音楽のチカラを感じました。

 ちょっとネタバレになりますが…、映画のオープニングでは、桑田佳祐がこの主題歌を歌っていますが、エンディングのスタッフ・ロールでは、ちゃんと渥美清の歌で聴けますから、ご安心を。
 ちなみに、この主題歌、映画を見たマニアの方ならお気づきかと思いますが、歌い出しの歌詞が、桑田佳祐の方は「♪俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ〜」という初期のバージョンで、渥美清の方は「♪どうせおいらはヤクザな兄貴〜」という第5作目以降のバージョンです(さくらがヒロシと結婚してしまったので、「お嫁にゃ行けぬ」の歌詞を変更したようです)。この曲の歌詞について、もっと知りたい方は、このコラムの第14回をお読みください。

 いずれにしろ、映画だけでも50本、テレビドラマ版から50年以上、この曲が使われているというコトは、本当にスゴイことです。完全に映画と一体化した、メロディだけで泣ける曲です。

 同じように長く続く映画シリーズと言えば、ジェームズ・ボンド・シリーズでしょうか…。1963年に日本で公開された『007 ドクター・ノオ』から、これまで24作が作られている「007シリーズ」でも、いわゆるメインテーマ曲は、シャーリー・バッシー、ナンシー・シナトラ、ポール・マッカートニ、シーナ・イーストンなどなど毎回違いますが、第1作で使われた『ジェームズ・ボンドのテーマ(”James Bond Theme”)』は、寅さん同様、毎回、使われています。

 そういえば…、むかしは、そもそも音楽ジャンルではないのに、「映画音楽」というジャンルが存在していました。ヘンリーマンシーニ、ミシェル・ルグラン、ニーノ・ロータ、フランシス・レイ…など映画音楽の巨匠作家もいて、『第三の男』『スティング』『太陽がいっぱい』『シェルブールの雨傘』『男と女』『ある愛の詩』『エデンの東』『白い恋人たち』『禁じられた遊び』『大脱走のマーチ』などなど、メロディだけで感動させられる名曲が数えきれないくらいあります。

 寅さんにハナシを戻します…。
 高度経済成長期、人と人との繋がりが以前と比べて希薄になりつつあった中、下町の濃すぎる人間関係を描き、笑って泣ける人情喜劇を作った脚本・監督の山田洋次。誰にも真似のできない見事な演技で、「渥美清って寅さんそのものじゃないのか?」って錯覚してしまうくらいの、寅さんという強烈なキャラクターを作り上げた主演の渥美清。そのメロディだけで泣かせる主題歌を作曲した山本直純…。もちろん、毎回のマドンナの起用や、ロケ地で全国をまわるというマーケティング戦略も秀逸でしたが、実は、この3人の「奇跡の出会い」こそが、『男はつらいよ』シリーズが成功した大きな要因ではないかと思っています…。

 そういう「奇跡の出会い」は、昭和のヒット曲とも似ています。「作詞家、作曲家、編曲家、歌手」の、「奇跡の出会い」と言える組み合わせが偶然できた時に、大ヒット曲の多くが生まれました。
 この『瀬戸の花嫁』も、山上路夫(作詞)、平尾昌晃(作曲)、森岡賢一郎(編曲)、小柳ルミ子(歌)という、4人の「奇跡の出会い」で大ヒット曲になりました。

 たとえば、カラオケで他の人が歌っているのを聴いて「それ いい歌だね、なんて曲?」というコトがあるように、名曲はその楽曲そのものの完成度ゆえ、誰が歌っても名曲として聴こえます。しかし、どうしてもオリジナルの歌手の説得力には勝てない歌もあります。

 その歌手の最も魅力的な声を、自然と引き出すような言葉とメロディがあり、また、同時に、その歌声が楽曲の魅力を最大限に引き出す…、そういう「楽曲と歌手の相性」が完全に一致することは、そんなに多くありません。

 多くの歌手にカバーされている『瀬戸の花嫁』ですが、誰のカバーを聴いても「いい曲だなぁ〜」とは感じますが、やはり、小柳ルミ子の歌で聴いてしまうと、「この曲は、この人の歌でなきゃ」と思ってしまいます。

 『瀬戸の花嫁』は、セールス的には、デビュー曲の『わたしの城下町』に勝てませんでしたが、記録ではなく記憶に残る名曲と言えます。2017年、小柳ルミ子の育ての親でもある作曲家・平尾昌晃の葬儀の時には、この『瀬戸の花嫁』が大合唱された映像が流れたのを記憶されている方も少なくないかと思います。実際「歌ネット」でも、「歌手名/小柳ルミ子」「作詞者/山上路夫」「作曲者/平尾昌晃」いずれの検索結果も「人気順」で並べると、『瀬戸の花嫁』が第1位です。

 小柳ルミ子本人は「レコーディングでは3〜4回くらいしか歌っていない」と言っていますが(『わたしの城下町』は、なんと一発OK!)、その唯一無二の歌声の良さだけでなく、語るように作られた歌詞とメロディと、見事な演出が施されたアレンジが、その歌手の良さも引き出し、自然と、それしかないという歌唱スタイルになるのではないでしょうか…。地域を限定しながら、実際に瀬戸内に行ったことのない人でも、まるで映画のように、その情景が自然と浮かんでくる曲です。

 この 1972年(昭和47年)は、横井庄一さんがグアム島から28年ぶりに帰ってきた年で、パンダの「カンカン・ランラン」が来日してパンダ・ブームとなった年でもあります。オリコンの年間ランキング上位20位以下でも(翌年ランクインした曲もありますが)、『男の子女の子』『学生街の喫茶店』『喝采』『北国行きで』『恋の町札幌』『この広い野原いっぱい』『さそり座の女』『四季の歌』『ジョニーへの伝言』『せんせい』『そして神戸』『バス・ストップ』などがあり、そういう今でも歌い継がれる名曲がたくさん生まれた年でした。

 楽曲と歌い手の相性は重要です。その楽曲にとって、最初に歌った歌手が必ずベストであるとは限りません。あとから歌われたカバーの方が、オリジナル歌手のバージョンよりもヒットすることがありますし、「そんなに好きな曲じゃなかったけど、カバーされたバージョンを聴いて好きになった」というコトもあります。

 「奇跡の出会い」が起きず、たとえば、楽曲と歌い手の相性が合わなかったり、あるいは、タイミングや運に恵まれなかったりすると、その曲はヒットせず、隠れた名曲となってしまいます。「他の歌手、もっと楽曲にあう歌手が歌ったら、もっとヒットしたかもしれない…」そういう残念な曲もたくさんあります…。
 そういう隠れた名曲を集めて、小柳ルミ子や石川ひとみや八神純子や太田裕美みたいに、魅力的な歌声の若いヒトを探して名曲を再生する企画を、ずっと前から考えています。昭和の優れた職業作家たちが残した名曲たちを今の若者に伝え、そして、未来に残していけます。
 どっかのレコード会社とかテレビ局とか企業とか、ノッてくれないですかね…。

(2020年1月 西山 寧)

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