第11回 八神純子「思い出は美しすぎて」(1978年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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第11回 八神純子「思い出は美しすぎて」(1978年)

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八神純子「思い出は美しすぎて」

八神純子「思い出は美しすぎて」(3:11) 作詞/作曲:八神純子、編曲:戸塚修
1978年(昭和53年)1月5日発売 7インチシングルレコード (45rpm STEREO) ¥600- DSF-116 ディスコメイトレコード

1974年12月10日にシングル「雨の日のひとりごと」でキャニオン「AARD-VARK(アードバーク)」レーベルよりプレ・デビューした八神純子のメジャー・デビュー・シングル(通算3枚目)。同年6月25日には、同曲収録のアルバム『思い出は美しすぎて』を発売。高校在学中だった1974年、16歳のときに初めて作詞作曲した「雨の日のひとりごと」で、第8回 POPCON 優秀曲賞に入賞し、第5回 世界歌謡祭の本選にも出場したことがきっかけとなりデビュー。「思い出は美しすぎて」はオリコン最高位25位。同名アルバムは週間最高位5位。3枚目(通算5枚目)のシングル「みずいろの雨」で大ブレイクし、その後、「想い出のスクリーン」「ポーラー・スター」「パープルタウン 〜You Oughta Know By Now〜」「Mr.ブルー 〜私の地球〜」などがヒット。1986年、イギリス人の音楽プロデューサー、ジョン・スタンレーと結婚し渡米。現在もカリフォルニア州に在住だが、2011年以降、日本でもライブ活動を積極的に行っている。

 この時期、街で流れているクリスマスソングを聴くのがキライです…「サンタが街にやってくる」とか「ジングルベル」とか。
 べつに、クリスマスソングそのものがキライなワケではありません。ただ、寒い冬の夜、スーパーを出た時とか、帰り道の商店街とかでクリスマスソングが流れているのを耳にすると、なぜか、悲し〜いキモチになるのです…。だから、キライなんです。
 「何かクリスマスに悲しい出来事があったの?」と聞かれても、とくに、そんな記憶はありません。きっと、必ず何かしらの原因があるのでしょうが、よくわかりません…。
 音楽は、時に、記憶の奥底にあるモノと深く結びついていることがありますね。

 フランスの小説家で思想家のマルセル・プルーストは、その著書『失われた時を求めて』の中で、「ニオイがきっかけで、忘れていた昔の記憶を思い出すことがある」というようなコトを書いています。香りを嗅ぐ事により、その時の記憶や感情が蘇る事を、今では「プルースト効果(現象)」と呼ばれているようです。

 たしかに、たとえば「雨上がりの草のニオイ」とか、「畑を焼くニオイ」とか、そういう懐かしいニオイを嗅いだ時、昔の思い出が一瞬で蘇り、切ないキモチになるコトがあります。ある特定の食べ物のニオイや、ある香水の香りが、そういう記憶をフラッシュバックさせるトリガーになるヒトもいるでしょう。
 KinKi Kids の『愛のかたまり』(2001年、作詞:堂本剛)の中には、「あなたと同じ香水を 街の中で感じるとね 一瞬で体温蘇るから ついて行きたくなっちゃうの…」という歌詞があります。う〜ん、よくできたフレーズです…。

 時には、音楽も、そういう忘れていた昔の記憶と感情を蘇えらせるトリガーになったりします。むかし、子供のころに、よく聴いていた曲で、もう何十年も聞いていなかった音を耳にすると、一気に、その当時の記憶と感情が蘇ってきたりまします。
 しかし、ただ単に、曲名を見たりとかしてその曲を思い出すだけでは、そういう効果は出ません。あくまでも、その当時と同じ音源を、つまり、イントロのサウンドや歌声を耳にした時に初めて、そういうコトが起きます。むかし聴いていた歌は、その頃の思い出や感情とともにあるのです。

 八神純子のメジャー・デビュー・シングル(通算3枚目)『思い出は美しすぎて』が発売された1978年(昭和53年)という年は、それまでの歌謡曲に加え、ニューミュージックが台頭してきた年でした。

 つまり、ボブ・ディランが初来日し、キャンディーズが後楽園球場で解散したこの年は、ピンク・レディとキャンディーズの人気は言うまでもなく、『夏のお嬢さん』『シンデレラ・ハネムーン』『カナダからの手紙』『ブルースカイブルー』『与作』などがヒットする中、前年(1977年)デビューの渡辺真知子、原田真二、世良公則とツイスト、渡辺真知子らに加えて、この年(1978年)デビューしたサザンオールスターズ、サーカス、そして、この頃、人気絶頂のアリス『冬の稲妻』、堀内孝雄『君のひとみは10000ボルト』、松山千春『季節の中で』、中島みゆき『わかれうた』などが人気でした。

 職業作家の作品を歌うのではなく、自分で曲を作るというシンガー・ソング・ライターやバンドが急激に増え、いわゆる「ニューミュージック」というジャンルで呼ばれるようになってきたのも、この頃からではないでしょうか。

 ちなみに、この年デビューしたヒトたちの中には、石川ひとみ、天馬ルミ子、渋谷哲平、大場久美子、中原理恵、石野真子、トライアングル、金井夕子、高見知佳、そして、当時は、まだアイドル枠であった杏里や竹内まりやらもいました。

 そんな中、この『思い出は美しすぎて』は異色の存在で、異彩を放ってました。なぜなら、八神純子のそれまで聴いたコトのなかった透き通るような圧倒的な歌声はもちろんですが、それまでのフォークや歌謡曲とは違い、メロディの響きが、あまりにおしゃれで新鮮だったからです。
 あとから知ったコトですが、そのヒミツは、音楽用語で言う「テンション」という音にありました。「テンション」とは、そのコード(和音)にはない音、コードからはずれた音のコトを言います。「テンション」(緊張)というその名の通り、緊張感を与える音になり、そのテンションをメロディにうまく使い「緊張」と「解放」を繰り返すことで、聴く人に心地よさを感じさせます。

 難しいハナシになってきたので、具体的に言うと、たとえば、『思い出は美しすぎて』の歌い出しの「やさしく〜」の「く〜」の音は、9th(ナインス)という音でテンションです。その後の「ひとり〜」の「り〜」の音も、同じく9th(ナインス)のテンションです。実際に音を聴けば、誰でも感覚的にわかるハズです(わからなかったら、ごめんなさい)。
 逆に、極端に、全くテンションを使わないと、唱歌とか童謡みたいなメロディになります…。
 ねっ、なんとなくわかってきたでしょ(わからなかったら、ごめんなさい)。

 もちろん、それまでの日本の歌謡曲や流行歌にもテンションは使われていましたが、どちらかと言えば、コードトーンのメロディが中心で、ここまで大胆な曲は、あまりありませんでした。
 ちょうど同じころの原田真二にも、八神純子と同じように大胆なテンションの使い方を感じました。『てぃーんず ぶるーす』の歌い出しの「えき〜に」とか、『キャンディ』の歌い出しの「キャンディ〜」なども、テンションのメロディが特徴的で強烈なインパクトがありました。
 言っておかないと怒られそうなので書いておきますが、他にも、山下達郎や尾崎亜美らも、うまいテンションの使い方をしていて、日本のポップスに見事に昇華しています。

 そして、八神純子から約8年後、久保田利伸『TIMEシャワーに射たれて…』(1986年)で、再びテンション使いの名手の登場を感じることとなります…。それが、1989年ころから言われるようになった「J-POP」というジャンルに繋がっていったと思われます。

 この『思い出は美しすぎて』、今と比べて曲が極端に短いのも特徴です。いわゆる「ワン・ハーフ」、つまり、2番とか3番はなくて、1番とサビの繰り返ししかありません。歌詞もたったの12行。曲尺も3分11秒とはなっていますが、2分20秒くらいで歌は終わってしまいます。
 なので、「えっ、もう終わり?」となりますが、だから、「また聴きたい」「もう一度聴きたい」となります。最近の曲は長すぎますね…。

 コンプが効きすぎのギターから始まるイントロや、ボサノバ風のアレンジもオシャレですし、なんと言っても、ボーカルの音質が最高です。石塚良一か吉野金次の手によるものかと思われますが、深すぎるディレイやリバーブも実にキモチよく、ブレスも心地よく聞こえます。

 ちなみに、八神純子の代表曲『みずいろの雨』『パープルタウン』などよりも、この『思い出は美しすぎて』や、昔からのファンには人気の『夜間飛行』、2ndシングルで小野香代子のカバーの『さよならの言葉』なんかを、聞かれればオススメしています。

 余談ですが…『思い出は美しすぎて』の間奏に入っているホイッスルの音は、みんな、八神純子の代名詞とも言える「サンバ・ホイッスル」だと思っているようですが、実は、体育のセンセ〜たちが使っている笛(呼子)なんです(本人が言っているのでホントです)。『みずいろの雨』のころからは、本物の「サンバ・ホイッスル」です…。

 ツラかったコトでも、遠い思い出となれば、ほとんどが懐かしく思えるものですね…。いまがタイヘンでも、時間が経てば思い出になるということです。平安時代の公家、藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん)も、『小倉百人一首』の中に「ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき」と残しています。ツラいと思っている今があるかもしれないけど、時間が経てば、それもまた懐かしく思えてくる…。
 それにしても、ワタシの「街のクリスマスソング症候群」の原因は、いったい何なんでしょう…? ホントに知りたいんですけど。

(2019年12月 西山 寧)

『思い出は美しすぎて』歌詞を見る

八神純子 歌詞一覧

1978年のヒット曲を見る 「歌ネット・タイムマシン」

収録CD『思い出は美しすぎて』

八神純子 オフィシャルサイト

ウィキペディア 八神純子

八神純子「大人の歌ネット」インタビュー・アーカイブ 2013年

アルバム『思い出は美しすぎて』ジャケット サンバ・ホイッスルかけてます。