第9回 順 弘子「さっそく振込みありがとう」(1984年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

色あせない昭和の名曲
便利でないことが、しあわせだった、あのころ …

週刊・連載コラム「なつ歌詞」

時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第9回 順 弘子「さっそく振込みありがとう」(1984年)

さっそく 振込み ありがとう
あなた 好き好き
お金は もっと好き ……
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順 弘子「さっそく振込みありがとう」

順 弘子「お金をちょうだい」(3:43) 作詞:いではく、作曲:遠藤実、編曲:池多孝春
1984年(昭和59年)8月発売 7インチシングルレコード (45rpm STEREO) 7DX-1328 ¥700- ポリドール

秋田県出身の歌手、順弘子(デビュー時は純弘子)の6枚目のシングル。15歳の時、日本テレビ「スター誕生!」秋田県大会で優勝し全国大会に出場したことがきっかけで上京し、作曲家の遠藤実に師事。1978年「もどって来ました新宿へ」で歌手デビュー。遠藤実の薦めで順調に行くようにと、この『お金をちょうだい』のタイミングで、純弘子から順弘子に改名。その後、レコード会社を徳間ジャパンレコードへ移籍。『お金をちょうだい』は、NHK 総合テレビ『SONGS』の特番『The Covers’ Fes 今夜はカバーソングナイト』(2014年12月10日、NHK BSプレミアム)のコーナー「うもれうた」の第1回でも取り上げられた。

 先週に引き続き、おカネの歌です…。
 今回の曲名も強烈です。最近の若者とか、知らないヒトにとっては、「『さっそく振込みありがとう』って…なんだそれ!」ときっと驚くことでしょう…。

 「音頭もの」で「水商売小唄」とでも言いましょうか…、遊びゴコロ満載の楽しい歌です。なんてったって、5番まである毎コーラスの最後が「アハハ〜ン タコ〜」ですもの…。陽気な「音頭もの」ですし「おバカソング」ではあるのですが、ただ「おバカ」なだけではなくて、ニヤリとさせるような、よく出来た歌詞です。
 実は…この歌、千昌夫『北国の春』や、杉良太郎『すきま風』を作ったコンビ、作曲が遠藤実、作詞が現 JASRAC 会長でもある「いで はく」による作品で、編曲も、藤圭子『京都から博多まで』、北島三郎『与作』、吉幾三『酒よ』、五木ひろし『細雪』、中村美津子『河内おとこ節』など、生涯2000曲以上のアレンジを手掛けた池多孝春です。つまり、超一流の制作陣が、楽しみながら自由に作っているのです。

 よく「昔と比べて、今は自由な時代になった」と言われますが、こと音楽に関して言えば、昔の方が、より自由で豊かだったように思います。
 「♪ウチ〜の女房にゃヒゲ〜がある」(『うちの女房にゃ髭がある』昭和11年、美ち奴)とか、「♪コッコッコッコッ コケッコ〜」(『ミネソタの卵売り』昭和26年、暁テル子)とか、「♪こ〜んなベッピン見たことない とかなんとかおっしゃって〜 イヤマッタク…」(『こんなベッピン見たことない』昭和28年、神楽坂はん子)とか、戦前戦後の流行歌の世界は、それはもう自由でダイナミックでした。

 昭和30年代以降も、小林旭『自動車ショー歌』(昭和39年)や、五月みどり『一週間に十日来い』(昭和37年)、ちあきなおみ『X+Y=Love』(昭和45年)など、曲名だけでもユニークで、今よりも「なんでもアリ」な気がします。
 とくに、五月みどりは「おもしろソング」の宝庫で、A面が『右折禁止』でB面が『うすらとんかち』という見事なシングルを出しています。「♪どうせ 私は うすらとんかちよ ン〜」と歌われた『うすらとんかち』は、『津軽のふるさと』や『山小舎の灯』『関東春雨傘』などを書いた米山正夫の作詞作曲というから、また驚きです。

 他にも、タイトルがスゴイ曲は、まだまだ数えきれないくらいあります。
 七星光『アイ・ラブ・ビキニ』、椿まみ『なぐられてもいいわ』、岡田可愛『わたし、癖になってしまったの』、林ふみ子『不安でどうする』、キューティー・Q『泳げ!!カマボコ』、岡田恭子『予約』……予約!
 誰もが知る有名なトコロでは、エト邦枝『カスバの女』、奥村チヨ『恋の奴隷』、都はるみ『困るのことヨ』、山本リンダ『どうにもとまらない』、ゴールデンハーフ『チョット マッテ クダサイ 』、金沢明子『イエローサブマリン音頭』、左ト全とひまわりキティーズ『老人と子供のポルカ』(B面は『おじいちゃん好き』)、城みちる『イルカにのった少年』…などなど、たくさんあります。
 橋幸夫の『恋のメキシカンロック』だって、メキシカンサウンドなのかロックなのか、よくわかりません。実際は、ラテン風のサウンドですが、歌詞もロックがルックになったりと、モ〜理屈ナシの楽しさです。

 今と違い、圧倒的に娯楽が少なかった昭和の時代、大衆の娯楽としての流行歌・歌謡曲の価値は今よりもずっと高いものでした。作り手側も、一流の職業作家たちが、「娯楽として聴き流されるもの」として、「遊び心」を持って楽しみながら作っていたように思います。

 当時の自由を感じる歌は、何も「おもしろソング」に限ったことではありません。たとえば、大ヒットした阿久悠作詞による北原ミレイのデビュー曲『ざんげの値打ちもない』(昭和45年)などは、簡単に言えば「未成年の犯罪者の歌」で、若き日の阿久悠の強い意志が感じられる挑戦的で強烈な歌です。
 また、藤圭子『圭子の夢は夜ひらく』(昭和45年)、梶芽衣子『怨み節』(昭和47年)など、「うらみ節」や「ドン底に落ちた徹底的に不幸な歌」も少なくありませんでした。カバーですが、『朝日楼(朝日のあたる家)』なんかも、そのメロディーの重さもあって、くら〜いキモチになる歌でした。

 でも、そういうクラ〜イ歌って、実によく出来ていて、心に染みたりします。そういう「犯罪者の歌」とか「徹底的に不幸な歌」、最近は、あんまりないですね。
 もちろん、桑田佳祐や井上陽水、中島みゆき…などなど、昔からやっている人たちは別ですし、最近の J-POP でも、おもしろソングや強烈な歌詞の歌はあります。
 しかし、昭和の歌謡曲のように広く知られたり、ましてやヒット曲になることはありません。そもそも、今では「誰もが知るヒット曲が出ない時代になった」ということもありますが、そういうことではなくて、何か根本的に質が違う気がします。

 この『さっそく振り込みありがとう』が大好きだというリリー・フランキーも、「昔の歌謡曲では、正しいことじゃないことが歌になっていることも多いけど、音楽は道徳の時間じゃないんですから」と言っているように、最近の歌の歌詞は、表面的で、どれも同じようで、ダイナミックさに欠け、何か窮屈な感じがしてしまいます…。

 でも、若者たちは、作っている側も、聴いている側も、そんなことは感じていないでしょう。だとすると、一見、昔よりも自由になったように見えるこの社会も、何か目に見えない枠に囲まれているような気もしてきます。もしかすると、こと音楽に関して言えば、昭和の方が今よりも本当の意味で自由だったのかもしれませんね…。

 昨日まで来日していたフランシスコ教皇は、日本の印象を「効率性と秩序によって形作られている」と言っていましたが、音楽には「効率も秩序」も「目に見えないルール」も必要ありません。
 音楽は、「なんでもあり」の自由なモノであって欲しいです。

(2019年11月 西山 寧)

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順弘子 歌詞一覧
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1984年のヒット曲 タイムマシン

収録CD『わたし今夜もイライラよ ~遠藤実異色作品集~』amazon

順弘子 レコードメーカー 徳間ジャパン 公式サイト
順弘子 オフィシャルサイト

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