第8回 美川憲一「お金をちょうだい」(1971年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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第8回 美川憲一「お金をちょうだい」(1971年)

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美川憲一「お金をちょうだい」

美川憲一「お金をちょうだい」(3:42) 作詞:星野哲郎、作曲:中川博之、編曲:小杉仁三
1971年(昭和46年)11月25日発売 7インチシングルレコード (45rpm)  CW-1199 ¥400- クラウンレコード

古賀政男に師事し、1965年、シングル『だけどだけどだけど』で歌手デビューした美川憲一の21枚目のシングル。2010年に、101枚目のシングルとしてリメイクされた『お金をちょうだい〜プラチナバージョン〜』が発売。1971年の発売当初は、NHKでは放送禁止となっていたが、リメイク・バージョンが発売されたタイミングで解禁。1966年、3枚目のシングル『柳ヶ瀬ブルース』が100万枚を超える大ヒット。その後、1967年の『新潟ブルース』、1968年の『釧路の夜』が続けてヒットし、同年、第19回NHK紅白歌合戦に初出場。1974年の第25回まで7年連続出場。1970年には『おんなの朝』(この曲も当時はNHKで放送禁止)、1972年には代表曲『さそり座の女』がヒット。

 米国のフォーブス誌(Forbes)の記事によると、「上位1%がアメリカの総資産3割を握っている」らしいです。また、ビジネス・インサイダー(BUSINESS INSIDER)の記事によれば、「アメリカでは納税者のトップ0.1%、約17万世帯が、国の富の20%をコントロールしている」そうです…。まるで、ほんの一握りのスーパー富裕層によって支配されている寡頭国家のようです…。

 では、日本はと言えば、純金融資産保有額が1億円以上の富裕層は約122万世帯で約2.3%。そのうち、5億円以上という超富裕層が約7万世帯、0.1%と言われています。その数が、多いのか少ないのかはともかく、みんな「お金持ち」になりたいと思っています。
 でも実際は、「お金が足りない…」と思っているヒトがほとんどかもしれません。だって、富裕層以外が約98%ですから。みんな等しく(だいたいのヒトは)一生懸命働いているのにフシギですね…。お金持ちになったり、なれなかったり。それに、「優秀な人」や「いい人」が必ずしもお金持ちになるとも限りません。いったい何が違うのでしょうね…。

 ところで、「お金で幸せは買えないんだね〜」という言葉をテレビなどでよく耳にします。「お金で幸せは買えるのか?」という言葉は、キャッチコピーとしては耳障りが良く秀逸ですが、突き詰めていくと禅問答のようになってしまう、あまり触れたくない危険なシロモノです…。飲み屋でも、大きく意見が別れ、激論になる話題です。

 そうです、鋭い『MUSIC GUIDE』の読者のみなさんには、もうおわかりでしょう…。言い換えれば「お金があれば幸せなのか?」というコトにもなり、その議論は「じゃあ、幸せってなに?」という方向に向かっていってしまうからです。
 そもそも、「しあわせ」とは、あくまでも主観的なもので、ヒトによって千差万別です。そんな「しあわせ」なんて極めて曖昧なモノを、「お金」という極めてリアルな道具と一緒に並べてしまっているのですから、それは、モ〜瀬川さんだって答えなんて出るハズがありません。

 ちなみに、あえて、その問いに答えるなら、ワタシは「買える」と思っています…。いや、正確に言えば「お金で買える幸せもあるし、買えない幸せもある」と思っています。
 お金を自由に使ってゴ〜ジャスに人生を楽しんでいるヒトもいれば、山奥で自給自足のような生活をして実に幸せにそうに暮らしているヒトもいますし、ただ単に「今日も生きている」というだけで、最高の幸せを感じているヒトだっています…。

 『お金をちょうだい』という歌は、知らないヒトがそのタイトルだけ聞けば、『クレクレタコラ』みたいなフザケた歌のようにも思えますが、そうではありません。男女の別れのシーンで、お金という生々しいモノを登場させながら、微妙な女性の心情を見事に描いていて、歌詞だけ読んでも、実に切ない歌です。
 この曲が、11月25日という年末に発売され、日本全国で「お金をちょ〜だい!」と言われたヒトが激増したかどうかはわかりませんが、歌の中で「お金をちょうだい」と言っている女性は、お金を「気持ちを変えるための道具」として考え、「お金をもらうというコトをきっかけに、別れる覚悟を決めたい…」と思っているように聞こえます。だいたい「お金をください」じゃなくて、「お金をちょ〜だい」ってトコが秀逸です。
 各コーラスの最後の「その方が あなただって さっぱりするでしょう…」が、その女性の「やさしさ」なのか「いやみ」なのか、はたまた、相手の男性も「まだちょっと未練がある」ということを表しているのかわかりませんが。

 いずれにしろ、とくに具体的な情景描写はないのに、聴いていると、なんだか別れのシーンが浮かんでくる歌です。
 生前「歌詞は出だしの2行で決まる」と言っていた、この詞を書いた星野哲郎ってヒトは、ホントにスゴイ人ですね。出だしの「別れる前に お金をちょうだい」もいいですが、そのあとの「あなたの生活(くらし)に ひびかない程度のお金でいいわ」が、またイイです。そんな生々しい歌詞、なかなか書けないですよ…。

 星野哲郎は、水前寺清子、北島三郎、都はるみらをデビュー前から手掛け、『三百六十五歩のマーチ』『いっぽんどっこの唄』『涙を抱いた渡り鳥』『なみだ船』『函館の女』『風雪ながれ旅』『アンコ椿は恋の花』などの作詞で知られる大作詞家です。
 他にも、『みだれ髪』『長崎の夜はむらさき』『兄弟船』『男はつらいよ』『昔の名前で出ています』『自動車ショー歌』『女の港』『黄色いさくらんぼ』『花はおそかった』…などなど、その作風の幅の広さにも驚かされます。最近では、島津亜矢の曲も多く手掛け、『海鳴りの詩』『愛染かつらをもう一度』『大器晩成』『感謝状〜母へのメッセージ〜』なども星野哲郎の作品です。

 一方、作曲の中川博之は、1966年のデビュー作『ラブユー東京』をはじめ、『わたし祈ってます』『足手まとい』『たそがれの銀座』『夜の銀狐』など、ロス・プリモス、ハッピー&ブルー、サザンクロスといったムード歌謡を多く書いています。最近では、純烈の『幸福あそび』なんかも、それっぽいですね。

 そして、最終仕上げは、美川憲一…。実は、この曲、完成当初は、とくに誰が歌うか決まっておらず、なんと、菅原洋一や美空ひばりなどが候補だったらしく、そんな中、美川憲一が、作曲の中川博之の自宅に行き、「歌わせてください」と直談判したようです。

  美川憲一というと、この『お金をちょうだい』の他にも『てんで話にならないわ』『駄目な時ゃダメよ』『三面記事の女』『おだまり』など、ちょっと変わったタイトルの曲が多かったり、その独特の風貌や声や喋り方など、今では際立った個性の方が目立ってしまいがちですが、「歌声の良さ」と「歌の説得力」は抜群です。
 ちなみに、シャンソンを歌うことでもよく知られていますが、越路吹雪の亡きあと、日本人が歌う『愛の讃歌』では、ワタシは美川憲一のが一番好きです。
 名曲は、誰が歌っても名曲として聴こえるものですが、やっぱり『柳ヶ瀬ブルース』は、今でも、美川憲一の声で聴くのが最高ですし、この『お金をちょうだい』も、よっぽどの猛獣使いでないと、この歌の雰囲気を伝えきれません。ちなみに、最近の若手では、川上大輔純烈がカバーしています。

 発売当初は、「歌のイメージが良くない」とかなんとかいった理由で、NHKでは放送禁止になっていたのは有名なハナシです。もちろん、今ではNHKでも歌えますが、それでも、初めて放送されたのは、たかだか10年くらい前です。
 2010年6月2日に、ゴ〜ジャスにリメイクされた『お金をちょうだい〜プラチナバージョン〜』がシングルとして発売されたことをきっかけに、NHKでは、おそらく、2010年6月13日放送の『BS日本のうた』が初めてだったのではないかと思われます…。

 1966年発売、3枚目のシングルの『柳ヶ瀬ブルース』が、デビューして初の大ヒットとなり、その後、『新潟ブルース』『釧路の夜』『おんなの朝』(コレも最初はNHKで放送禁止)などがヒットし、1971年に、21枚目のシングルとして、この『お金をちょうだい』が発売されました。ちなみに『さそり座の女』はこのあと、翌1972年の発売で25枚目のシングルです。(さそり座だけでなく『射手座の女』って曲もあったりします…)

 いずれにしろ、今よりも、ずっとダイナミックな時代だったように思います。言葉が自由で、タブーも少なく、ヘンな遠慮や気遣いもありません。今ほどまわりくどくなくストレートです。

 ヒップホップ・グループの「クリフエッジ」や、地下アイドルグループの「仮面女子」とコラボしたり、コロッケとのジョイントコンサートをするかと思えば、ロサンゼルスで単独コンサートを行ったりと、今でも、自由でダイナミックな活動をしている美川憲一ですが、今月、2019年11月27日には、男装女子ユニット『Vipera』(ヴァイパー)と新ユニットを結成し、初めて作詞をした『いいじゃない〜自由通り』を「美川憲一とザ・ヴァイパー」名義でシングルとしてリリースします。

 歳を取ると、無意識にですが、自ら「ジブンの世界」を狭めていってしまうものです…。「あんなコトはもうできないし…」とか、「そんなコトは、この歳じゃあ みっともないから…」とか。
 でも、だからこそ、いつまでたっても自由で、新しいことにも挑戦するキモチを持ち続けたいですね。

 また聴いてみたくなりませんでしたか…?

(2019年11月 西山 寧)

『お金をちょうだい』歌詞を見る

美川憲一 歌詞一覧

作詞:星野哲郎 歌詞一覧
作曲:中川博之 歌詞一覧

1971年のヒット曲 タイムマシン

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美川憲一 レコードメーカー 日本クラウン 公式サイト
美川憲一 オフィシャルサイト
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