今井美樹 「野性の風」
「野性の風」 今井美樹 (4:54) Key~E B面「三日月のサーベル」(作詞:川村真澄、作曲:筒美京平、編曲:久石譲)
作詞:川村真澄、作曲:筒美京平、編曲:久石譲
1987年(昭和62年)7月 1日 発売 アナログ 7インチ シングル レコード(45rpm、STEREO)
¥700 7K-266(OS-716) FOR LIFE / フォーライフレコード
東宝東和配給『漂流教室』主題歌
オリコン週間ランキング最高位24位
※ 1988年5月21日 発売 『野性の風』8cm CD シングル 10C-21 フォーライフレコード
※ 1987年9月21日 発売 2nd アルバム『elfin』収録
※ 1989年12月6日 発売 1st ベストアルバム『Ivory』収録
※ 1998年 7月 1日 発売 3rd ベストアルバム『IMAI MIKI from 1986』収録
※ 2004年6月16日 発売 7th ベストアルバム『Ivory III』収録
モデル、女優、歌手として活躍する今井美樹の 2ndシングル。
1963年生まれの宮崎県出身。高校卒業後に上京し、1983年、女性ファッション誌『mc Sister』のモデルとしてデビュー。その後、女優としてテレビドラマやテレビCMなどにも出演し、1986年にシングル「黄昏のモノローグ」でフォーライフレコードから歌手デビュー。数々の連続ドラマに主演する一方、資生堂 秋のキャンペーンソングとなった4枚目のシングル「彼女とTIP ON DUO」(1988年)がヒットし、その後、「瞳がほほえむから」(1989年)、「PIECE OF MY WISH」(1991年)、「PRIDE」(1996年)、「Goodbye Yesterday」(2000年)などが大ヒット。
1999年に、ギタリストでシンガーの布袋寅泰と入籍し、2012年には、家族とともに英国に移り住む。生活の拠点を英国に移した後も、2013年には、松任谷由美のカバーアルバム「Dialogue」、2015年には19枚目となるオリジナルアルバム「Colour」、2018年にはアルバム「Sky」をリリースするなど、コンスタントに活動。
今月、2020年11月11日には、「瞳がほほえむから」「PIECE OF MY WISH」「PRIDE」など自身の名曲10曲をフルオーケストラで再現したセルフカバーアルバム「Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST」がリリース。初回盤に付属のDVDには、「野性の風」のライブ映像も収録されている。
筒美京平が作曲した、今井美樹 2枚目のシングル曲!
言葉を伝えるための完璧なメロディと、唯一無二の歌声!
心を打つ、ミディアムバラードの隠れた名曲!
以前にも、どっかの回で書きましたが、音楽は、ワタシたちの記憶と強く結びついています。何十年かぶりに聴いた曲が、忘れていたその当時の記憶を鮮明に呼び起こしたりして、時には、切ないキモチにもなったりします……。
音楽とは、理屈ではなく、直接、感情に訴えかけられるもので、極めてパーソナルなものです……。
つまり、基本的には、音楽には「優劣」など存在せず、「好き嫌い」があるだけです。どんな大ヒット曲であったとしても、必ずしも全員が好きになるワケではなく、「スキじゃなぁ〜い」ってヒトもいたりするもんです。
逆に、どんなにマイナーな曲であったとしても、あるヒトにとっては、たまらなく大好きで、かけがえのない1曲かもしれません……。
ワタシがキライなエビを、多くの人が好きだからと言って、エビが何か優れているワケではありません……。ムリに嫌いなモノを食べなくても、ジブンが好きなモノを食べれば良いのです。それとおんなじ。
さて、今井美樹といえば、上田知華が作曲、佐藤準が編曲のコンビによる、初期のヒット曲たち、『瞳がほほえむから』(1989年、作詞:岩里祐穂)、『PIECE OF MY WISH』(1991年、作詞:岩里祐穂)、『彼女とTIP ON DUO』(1988年、作詞:秋元康)などが有名です……。
その後も、今井美樹の最大のヒット曲となった『PRIDE』(1996年、作詞・作曲・編曲:布袋寅泰)や『Goodbye Yesterday』(2000年、作詞・作曲・編曲:布袋寅泰)などなど、名曲がたくさんあります……。
今井美樹の名曲を1曲挙げろと問われれば、全てが感動的な『瞳がほほえむから』とワタシは答えます……。
では、なぜ、『野性の風』なのか……? それは、ワタシが好きで、ワタシのココロに残る1曲だからです……。
どれだけのヒトが「うわぁ〜、なつかしい〜っ!」と思ってくれるのかわかりませんし、どれだけのヒトが、その当時の記憶やキモチを思い出してくれるのかはわかりませんが……。
だいたい、「なつかしい」などと思うのは、忘れかけていたものを見たり、聞いたりするからであって、ちょいちょい耳にしているような曲には、「なつかしい〜」と感じたりはしないものです。
で、この曲『野性の風』は、今井美樹のシングルで、唯一、筒美京平が作曲したシングル曲です(カップリングの『三日月のサーベル』も)。
先月、2020年10月7日に亡くなった筒美京平といえば、このコラムでも『また逢う日まで』『木綿のハンカチーフ』『よろしく哀愁』『青いリンゴ』と、すでに4曲も書いていますし、ほかにも、『ブルー・ライト・ヨコハマ』『さらば恋人』『ロマンス』『仮面舞踏会』などなど、「筒美京平が作った歌を聴いたコトのない人なんていないんじゃね?」ってくらい大ヒット曲がいっぱいあります……。
なにしろ、歴代作曲家シングル総売上が1位で、JASRAC に登録されている曲数だけでも、2700曲以上もありますから……。
で、パブリックな場所で、筒美京平の名曲を1曲挙げろと問われれば、『さらば恋人』と答えるかもしれません……。
では、なぜ、『野性の風』なのか……? それは、ワタシが好きで、ワタシのココロに……、あまりにクドイので、もうヤメておきます……。
さて、今井美樹というヒトは、最初は、雑誌『mc Sister』のモデルさんで、その後、テレビドラマ『輝きたいの』『ハーフポテトな俺たち』『春一番が吹くまで』などに女優として出演し、シチズン『リビエール』『ハナマルキ味噌』などのテレビCM にも出ていました。
歌手としては、1986年5月21日に、シングル『黄昏のモノローグ』でデビューしていて、中では一番最後だったりします……。
にもかかわらず、長きに渡って、女優を続けながらも、歌手としても多くのヒット曲を出し、その両方で成功していますし、今月、ニューアルバムが出るなど、今でも現役です。
その歌唱力や、オシャレで大人っぽく上品な楽曲が多かったこともあり、もちろん、年齢という要素が一番かとは思いますが(歌手デビューは 23歳)、同時期の原田知世、斉藤由貴、中山美穂、南野陽子、浅香唯ら「女優もやるアイドル歌手」とは一線を画したイメージで、当時、「アイドル」ではなく「アーティスト」なカンジでした。
そのへんは、デビューからずっと今井美樹を担当していた、フォーライフレコードのディレクターであり、プロデューサーだった松田直の手腕によるところも大きかったかと思います……。
そして、今井美樹が、歌手として大きく売れ始めたのは、一般的には、資生堂の「秋のキャンペーンソング」になり、1988年にリリースされた4枚目のシングル『彼女とTIP ON DUO』(作詞:秋元康、作曲:上田知華、編曲:佐藤準)くらいからで、この2枚目のシングル『野性の風』が出たころは、歌手としては、まだ未知数なカンジでした……。
でも、楳図かずおの漫画が原作の実写映画『漂流教室』(1987年7月11日公開)というホラ〜映画の主題歌だったこともあり、オリコンの週間最高位は24位に入りましたし、その後、1989年に発売された最初のベストアルバム『Ivory』に収録され(アルバムバージョン)、アルバムの累計売上が150万枚を超えると言われるミリオンセラーとなったことで(オリコン1990年度年間7位)、『野性の風』は、さらに知られるようになりました。
その後も、1998年 と 2004年にリリースされたベストアルバムにも収録されるなど、実は根強い人気の曲です。
で、この『野性の風』という曲の何がイイのかと言うと……、ひとことで言えば、メロディと歌詞とアレンジ、そして歌声の相性の良さです。
名曲となるのに必要な、これら4つの要素が、バランスよく完璧にマッチしていて、実に完成度の高い作品になっています。
まず、筒美京平によるメロディそのものも、キャッチーで美しいのですが、言葉がよく伝わるように、実に緻密に計算されて作られています。
そして、川村真澄による切なく深い歌詞を、まるで微笑みながら歌っているような今井美樹の明るいトーンの歌声で、言葉が余計に心に迫ってきます……。
ところで、好きな歌と出会う時というのは、当時であれば、テレビやラジオ、有線などのいわゆる「街鳴り」だったりといったように、多くの場合、まず、耳で音として聴きます。歌詞カードを見るなどというのは次の段階で、まずは音です。楽譜を見ても音は出ませんし、楽譜を見ただけで感動できるヒトはいないでしょう……(もしかしたら、いるかも……)。
耳にした歌を好きになるには、もちろん、メロディや歌詞、サウンドも重要ですが、まずは、その音、すなわち歌声が魅力的でなければなりません。
そういう意味でも、今井美樹の歌声は抜群です。
独特のやわらかな声質で、ナチュラルで、素直なストレートボイス。歌い方も、ヘンなチカラが入っていないから、聴く方もリラックスして聴けるし、まるで笑顔で歌っているような明るい響きで、言葉が前に出て伝わってきます……。
やさしくて、ふわっとしていて、重くない……、でも、色気もある……、不思議な魅力を持った、なかなか他にはいない歌声を持ったシンガーです。
だから、この歌詞も、スッと心に入ってきます。
この曲の作詞をしたのは、川村真澄というヒトで(川村結花ではありません)、『流星のサドル』『TIMEシャワーに射たれて…』『GODDESS〜新しい女神〜』『You were mine』など一連の久保田利伸のヒット曲の作詞で知られる作詞家。ほかにも、アン・ルイス『天使よ故郷を見よ』、和田アキ子『だってしょうがないじゃない』、渡辺美里『My Revolution』が有名です。
でも、ワタシが知る中では、この『野性の風』が、川村真澄の作品の中ではナンバーワンです……。
この『野性の風』の歌詞は、何度読んでも、正確な意味はよくわかりません。でも、メロディに乗った今井美樹の歌声で聴いた時に、「野性の風吹く日に 今のすべてを捨てて……」とか、「野性の風みたいに 強い心が欲しい……」などが、とても心に響いてきます……。
良い歌詞とは、往々にしてそんなもので、一度読んで全てがわかってしまうような歌詞は、「ふ〜ん」で終わってしまい、感動なんかしないもんです。
いろんな解釈ができたりするから、いろんな聴き手に共感されるワケで、さらに、普遍的なコトを歌っているから、心に響くのです……。
男女の別れのシーンのようにも聞こえますし、不倫の歌のようでもあり、人間が避けられない最後の別れ、すなわち死を感じさせるような歌詞でもあります……。
「野性の風」とは、「あるがままに」「自然のままに」「心のままに」というような比喩に聞こえ、「あなたはホントに心のままに自由に生きることができていますか?」と、自分自身の弱さや、生き方を問われているようにも感じます……。スゴイ歌詞です。
ちなみに、映画『漂流教室』には、『A REASON TO BE』というタイトルの英語詞バージョンもあって、それは、ゴダイゴのトミー・スナイダー(TOMMY SNYDER)が作詞しています。もちろん、歌っているのは今井美樹ですが、このバージョンは、映画のサントラにしか入っていません……(たぶん)。
『A REASON TO BE』ですから、「生きる意味」「存在意義」みたいな意味でしょうか……。
そして、この曲のアレンジは、映画『漂流教室』の音楽も担当した、若き日の久石譲……、そうです、ジブリの音楽で有名なヒトです。
久石譲は、1984年に、宮崎駿監督による長編アニメーション映画『風の谷のナウシカ』の音楽を担当したことで一躍脚光を浴びるようになり(当初は、細野晴臣が担当する予定でしたが、イメージと違うということになってかわったようです)、その後も、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『となりのトトロ』(1988年)など、一連のジブリ作品を担当しています。
『野性の風』には、映画で使われたシングル・バージョンとアルバム・バージョンの2種類の音源があって(英語詞の『A REASON TO BE』を入れると3バージョン)、ボーカルの録音は同じですが、ミックスが違っていて、印象も違います。
大きく違うのはイントロで、シングルでは、フレットレスベースの音がメインになっていますが、アルバムの方では、アコースティック・ギターが足されています。
ドラムの音もシングルの方がデカく、とくに、スネアの音は、当時、80年代の流行りだったゲート・リバーブの効いたハデな音ですが、アルバムの方では、比較的ナチュラルなスネアの音になっていたりと、全体的に、アルバム・バージョンの方が落ち着いたアコースティックな音作りになっています……。
ところで、よく、この曲のタイトルを間違えて『野生の風』と書くヒトがいますが、『野性の風』が正解です……。
キモチはわかりますが、「野生」って……、奥様……、ウマじゃないんだから……。
(2020年11月18日 西山 寧)
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収録CD「Premium Ivory -The Best Songs Of All Time-」ユニバーサルミュージック
今井美樹 ユニバーサルミュージック
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今井美樹「Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST」MUSIC GUIDE
from 25th Anniversary Tour 2011 LOVE & BLESSINGS ~Mikiʼs Affections~