第57回 由紀さおり「生きがい」(1970年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

色あせない昭和の名曲
便利でないことが、しあわせだった、あのころ …

週刊・連載コラム「なつ歌詞」

時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第57回 由紀さおり「生きがい」(1970年)

お茶さえ 飲まないで
とび出して ゆくのね
体に毒よ いつもそうなの ……
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由紀さおり「生きがい」

「生きがい Reason to live」 由紀さおり (3:10) Key=E B面「ずっと前から」
作詞: 山上路夫、作曲:渋谷毅、編曲:渋谷毅
1970年(昭和45年)11月5日発売 アナログ 7インチ シングル レコード(45rpm、STEREO)
¥400 EP-1266 EXPRESS / 東芝音楽工業

オリコン・ランキング 週間最高位 6位
オリコン・ランキング 1971年度 年間 48位(発売の翌年)


 由紀さおり、7枚目のシングル。
 姉の安田祥子とともに、小学生の頃より童謡歌手として活動。NHK 歌のお姉さん、アニメ声優、CMソングの歌唱などで活躍し、1965年、17歳の時、本名の「安田章子」名義で、キングレコードからシングル「ヒッチハイク娘」で歌手デビュー。シングル4枚をリリース。
 1969年、「由紀さおり」として、「夜明けのスキャット」で東芝音楽工業から再デビューし、150万枚を超えると言われる大ヒットとなり、年末の「第20回 NHK 紅白歌合戦」に初出場。以降、1978年の第29回まで10年連続出場。「天使のスキャット」「手紙」「生きがい」「恋文」「ルーム・ライト」「故郷」「挽歌」などがヒット。その後、女優としても映画、ドラマへ出演、司会、バラエティなど幅広く活躍。声楽家の姉、安田祥子と美しい日本の歌を次世代に歌い継ぎたいと活動を続ける。
 2011年秋には、アメリカのジャズオーケストラ Pink Martini とのコラボレーションアルバム「1969」をリリース。世界50か国以上で発売、配信され、世界的なヒットとなる。
 2012年、秋の紫綬褒章受章。2019年には 旭日小授章受章。現在も、衰えない美しい歌声で活躍中。


由紀さおりの 7枚目のシングル!
代表曲としては 3番手以降ながら、多くの人に心に残る名曲!


 先週、書いた、中条きよしの『うそ』とともに、タバコという歌詞が印象的に耳に残っている曲が、この『生きがい』……。タイトルは、レコードジャケットを見ると『生きがい Reason to live』となっていますが、JASRAC の登録は、ただ単に『生きがい』……。

 このジャケット写真の、この鬱蒼とした森はいったいドコかと思えば、由紀さおりが好きな神宮外苑の銀杏並木だそうです……。

 1960年代〜70年代は、喫煙者が男性の約8割と多数派だったため、今とは正反対に、タバコを吸わないヒトの方が肩身の狭い思いをしていました。
 新幹線も、在来線特急も、モチロン全席喫煙席……、子供のころは、頭が痛くなったものです˘……。
 地下鉄の駅のホームで、電車を待つ間にいっぷく、会社のデスクに着いたらいっぷく、会議が始まる前や、打ち合わせに行った先でも、まずいっぷく……、とまあ、そんなカンジでしたね……。映画館でも吸っているヒトがいました……。

 それが、今や、喫煙率は約2割にまで下がり、改正健康増進法も施行され、喫煙者には厳しい時代になっています……。「すいません!吸います!」って、オヤジギャグにもなるくらい。
 「そんなに悪いモノなら、いっそ、法律で禁止してしまえばいいのに!」とさえ思います……。

 ちなみに、よく「喫煙率が低下しているのに、肺ガン死亡率は上昇している……、だから、タバコは悪くない」というコトを言うヒトがいますが、それはちょっと違います。

 たしかに、単純にデータだけを見ると、その通りなのですが、タバコを吸って、すぐにガンになるワケではありません。喫煙率が下がってから肺ガンの死亡率が下がるまでには、30年くらいのタイムラグがあるそうです。
 加えて、ただ単に高齢化のせいで、肺ガン死亡率が上がっているというコトもあります。高齢になればなるほど、ガンで死亡する可能性も高まるからです……。

 でも……、たしかに、90歳を超えても、プカプカ元気にタバコを吸っている知り合いもいたり……、やっぱり、ガンって、遺伝子のカンケ〜なんですかね……、よくわかりませんが……。

 一方、「タバコは文化である」と考える喫煙愛好者が集まった「喫煙文化研究会」(代表:すぎやまこういち、呼びかけ人:西部邁、筒井康隆、二木啓孝ら)が、「愛煙家通信」なるウェブサイトを運営していて、そこには、養老孟司、曽野綾子、北方謙三、畑 正憲、倉本 聰……ら、錚々たる面々が寄稿していて、ちょっと過激な意見もありますが興味深いです。愛煙家の方はぜひ……。

 と、まあ、当時は、そんな様子ですから、タバコは、歌詞のアイテムとしても、よく使われていました。

 沢たまきの『ベッドで煙草を吸わないで』(1966年)などは、その代表格ですが、「♪あなたの好きな タバコの香り〜」の『ブルー・ライト・ヨコハマ』(いしだあゆみ)、「♪少し煙草も ひかえめにして〜」の『つぐばい』(テレサ・テン)、「♪タバコの煙り 目にしみただけなの〜」の『氷雨』(佳山明生、日野美歌)……。
 ほかにも、『北酒場』『アメリカ橋』『男の背中』『赤いスイートピー』……、1999年の宇多田ヒカルの3枚目のシングル『First Love』にもタバコが出てきます。

 と、思ったら……、なんと、今、若者に大ヒット中の瑛人(えいと)の『香水』にも出てくるではありませんか!

 で、思うに、この『生きがい』の歌詞の中でタバコを吸っている「あなた」は、タブン、当時は、どこにでもあった陶器の灰皿を使っていたのではないでしょうか……。あ〜、あれね〜。

 そして、「♪お茶さえ飲まないで」にも時代を感じますね〜。きっと、今ならコーヒーですもの。だから、オシャレな曲調にもかかわらず、どうしても、ベッドではなく、「タタミに布団」をイメージしてしまいます……。

 「♪体に毒よ……」も、「ドジ」とか「おじゃん」みたいに、今は、あんまり言いませんね〜。だいたい、タバコは「のむ」って言ってましたし……。

 そんなことはともかく、『生きがい』は、「由紀さおり」としてのデビュー曲で最大のヒットとなった『夜明けのスキャット』(作詞:山上路夫、作曲:いずみたく、編曲:渋谷毅)や、5枚目のシングルで同じく大ヒットとなった『手紙』(作詞: なかにし礼、作曲・編曲:川口真)、あるいは、『恋文』や『ルーム・ライト』ほどは、なぜか取り上げられませんが、ワタシにとっては、由紀さおりと言えば、この曲です……。

 かわいらしい音色で、叙情歌のような、どこか懐かしい感じのする旋律のイントロではじまり、この当時ならではの「鉄板(プレート)リバーブ」の効いた、やさしい天使のような歌声にひきこまれます。言葉を置くような素直な歌い方で、言葉が心に沁みます。

 ところで、冒頭の「♪い〜ま〜 あなたは 目ざめ 煙草を くわえ〜て〜る」の4小節は、コードが変わってもベースが動かないで、同じ音をキープし続ける「ペダルポイント」とか「通奏低音」と言われる技法が使われています。

 コードは、1小節ごとに「E → A → B → E」と変わっているのですが、ベースは、ず〜っと「E」の音を4小節弾き続けているというワケです……。つまり、「E → A/E → B/E → E」というコト。

 で、コレが実にいいんですね〜。そのあとの5小説目「♪は〜や〜く」で、初めてベースが動くのがですが、そこが実に心地よくなるのです……。

 「A’」の「♪か〜ら〜だに毒よ」のトコロにいたっては、さらに、ストリングスが入ってきたりして、も〜 トリハダものです……。

 サビは、変拍子が入っていたりして、ちょっと変わったカンジではありますが、この曲に関しては、も〜「Aメロ」だけで充分すぎるくらいステキな曲です……。この「Aメロ」のメロディと言葉が、あの歌声とともに耳に残って離れなくなる曲です……。

 ちなみに、松田聖子も、デビュー前の、心に残る1曲は、この『生きがい』だと言っています……。

 さて、この曲の作曲と編曲は、ジャズピアニストの 渋谷 毅(しぶや たけし)というヒト。もともとはプレイヤー兼アレンジャーとして、坂本九の『見上げてごらん夜の星を』(1963年、作詞:永六輔、作曲:いずみたく)などの編曲者として知られていて、「由紀さおり」としてのデビュー曲『夜明けのスキャット』(作曲:いずみたく)から5枚目のシングル『手紙』まで、ずっと編曲を担当していました。

 余談ですが、『夜明けのスキャット』のイントロのギターは、サイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』から発想したと、渋谷毅は言っています……。というか、『夜明けのスキャット』は、メロディも、どことなく『夜明けのスキャット』に似ているし、渋谷毅は、いずみたくから譜面を渡された時に、「同じだ!」と思ったそうです……。

 で、このコラムでも、以前に書きましたが、そういうのを「パクリ」とか言うヒトは、品性に欠けます。
 また、長くなるので、ココではあまり言いませんが、音楽とは、全て模倣、コピーから始まるものですし、似ていても違う曲で、それがよければそれで良いのです……。

 渋谷毅は、その後も、作曲家としては、佐良直美、天地真理、アン真理子、森山良子らに楽曲提供していますが、おそらく、歌謡曲で最も売れたのは、この『生きがい』です。
 1980年代からは、NHKの『おかあさんといっしょ』などの子供番組に多くの作品を提供していて、『ぼくのミックスジュース』とか、そっちの方が有名かもしれません……。
 いずれにしろ、想像するに、プレイヤー気質のヒトと思われ、ライブやレコーディングを中心に活躍しました。

 で、一方、作詞の山上路夫(やまがみ みちお)は、昭和を代表する作詞家のひとり。
 由紀さおり『夜明けのスキャット』や、以前にこのコラムでも書いた 小柳ルミ子『瀬戸の花嫁』、佐良直美『世界は二人のために』、ガロ『学生街の喫茶店』、アグネス・チャン『ひなげしの花』、赤い鳥『翼をください』、トワ・エ・モワ『或る日突然』、山本コウタローとウィークエンド『岬めぐり』、江利チエミ『酒場にて』、梓みちよ『二人でお酒を』、朱里エイコ『北国行きで』、天地真理『恋する夏の日』、野口五郎『私鉄沿線』……などなど、も〜 ヒット曲は数えきれないくらいです……。

 ちなみに、山上路夫の父親もスゴイ人で、昭和初期に活躍した音楽家の東辰三(あずま たつぞう)で、『荒鷲の歌』『君待てども』『港が見える丘』などを、作詞も作曲もしているヒトです……。

 ところで、『生きがい』は、由紀さおりの楽曲の中で、唯一、セリフの入っている曲です。このセリフ部分が、最初から山上路夫が書いた歌詞にあったのか、あとから付け足したのか……、誰かご存知であれば、教えてください……。

 由紀さおり『生きがい』は、その後、いしだあゆみ、布施明、フランク永井、渡辺真知子、中森明菜らが、2000年以降にも、原由子、岩崎良美、ASKA らがカバーしています。

 さえに、由紀さおりの『生きがい』は、2013年に、ハリウッドのスーパーヒーロー映画『ウルヴァリン: SAMURAI』の挿入歌としても使われています……、見ていませんが……。

 その前、2011年に発売されていたジャズアルバム『1969』で、アメリカのジャズオーケストラ「ピンク・マルティーニ」と共演していたため、映画が公開された2013年の7月には、ハリウッドボウルで開催されたピンク・マルティーニの公演に由紀さおりがゲスト出演していたりします。
 なんでも、ピンク・マルティーニのリーダーであるトーマス・ローダーデールから「ハリウッドボウルデビューを果たした日本のバーブラ・ストライサンド!」と紹介され、歌唱も大好評だったようです……、もちろん、見てはいませんが……。

 カバーと言えば……、由紀さおりがピアノ伴奏者として最も信頼していたジャズ・ピアニストの故・佐山雅弘が、ライブで、この『生きがい』を演奏していたりしていました……。インストですが、とっても良かったのです……、もう聴けないのがホントに残念です……。

 ところで……、このコラムについて、「あんなに長いのに、いつも、その曲のことはほとんど書かれていない……」というご感想をよくいただきます……。実は、その通りです……。
 究極には、歌は説明するものではないと思っていますから……、説明なんてするのはヤボというもの。

 音楽は、極めて感覚的なもので、パーソナルなものです。それぞれ聴く人が、それぞれ自由に感じるものです。音楽に「良い、悪い」などなく、「好き、嫌い」があるだけです……。

 音楽は、記憶と強く結びついていたりします。音楽が、忘れていた記憶や、その頃のキモチを思い出したりするトリガーになるコトも少なくありません……。

 そんなことで、何かの刺激になれば幸いです……。

(2020年10月28日 西山 寧)


<おことわり>
来週のコラムは、都合によりお休みします。次回は、11月11日(水)となります。


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収録CD「由紀さおり プレミアム ベスト」ユンバーサルミュージック


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