第41回 町田義人「戦士の休息」(1978年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第41回 町田義人「戦士の休息」(1978年)

頬に落ちた 熱い涙
知られたくは ないから……
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町田義人「戦士の休息」

町田義人「戦士の休息」(3:35) B面「銀河を泳げ」
作詞:山川啓介、作曲:大野雄二、編曲:大野雄二
1978年(昭和53年)8月10日発売 EP盤 7インチ シングル レコード (45rpm、ステレオ)
¥600 YK-501-AX COLUMBIA / 日本コロムビア

1978年10月7日公開
角川春樹事務所製作・第3回作品/日本ヘラルド・東映共同配給 森村誠一 原作(角川文庫)/佐藤純彌 監督
「野性の証明 PROOF OF THE WILD」主題歌(メイン・テーマ)

1978年9月25日発売 LP 「野性の証明 PROOF OF THE WILD」オリジナルサウンドトラック収録(YX-5001 日本コロムビア)
1979年3月1日発売 LP 町田義人「長距離ランナー」収録(YX-5008 日本コロムビア)


 1968年(昭和43年)10月に、アルバム「ズーニーヴーの世界 / R&B ベスト・ヒット」でデビューしたグループ・サウンズのバンド「ズー・ニー・ヴー」のボーカルを経て、1970年以降、ソロ活動をした歌手・町田義人(まちだ よしと)が歌った、映画「野性の証明」の主題歌。
 「ズー・ニー・ヴー」では、1969年4月発売、4枚目のシングル「白いサンゴ礁」が、当初B面だったにも関わらずヒット。その後、再発盤ではAB面が入れ替えられた。1970年2月10日発売の「ひとりの悲しみ」は、後に、歌詞とタイトルが変更され、尾崎紀世彦が歌った「また逢う日まで」となった。
 バンド脱退後は、テレビ番組や映画の主題歌、テレビCMなどを数多く歌い、とくに、CMでは売れっ子となり、「資生堂 オーデコロン MORE」「ロッテ 小梅」「マクドナルド」「ハウス シャンメン」「サッポロビール」「出光ガソリン」「日産 サニー」「月桂冠」「オリンパス μ(ミュー)」「三菱 サウンドスクウェア」……など、500本近くを歌ったと言われている。自身が歌ったテレビドラマや映画主題歌なども含め、シングル、アルバムも多数リリース。中には、「町田ジョー」や「町田よしと」名義の作品もある。


町田義人の歌声と
松木恒秀のギターが印象的な
大野雄二が書き下ろした映画主題歌!


 「お父さんこわいよ…… 何か来るよ…… 大勢でお父さんを殺しに来るよ!」という、なんともコワ〜イ感じのテレビCMが、当時、大量に流れていたことを覚えていらっしゃる方も少なくないかと思います……。ベストセラー小説を映画化した『人間の証明』に続き、森村誠一が原作を書き下ろした、薬師丸ひろ子14歳、中学生の時の映画デビュー作、角川映画 第3作目の『野性の証明』です。
 ちなみに、薬師丸ひろ子は、この映画がデビュー作とされていますが、映画公開前にテレビ朝日系のドラマ『敵か?味方か?3対3』に出ています。なんでも、演技経験がなかったため、練習だったとか。

 映画は、大量虐殺事件というやっぱりコワ〜イ話でしたが、角川映画としては、初めて邦画年間興行収入ランキング1位になるなどヒット。映画の内容はともかく、今とは違い、当時、斜陽産業だった映画界にとっては、明るいニュースでした。

 その主題歌も、角川映画の第1作『犬神家の一族』、第2作『人間の証明』に続き、大野雄二が担当。
 もともとジャズ・ピアニストで、テレビアニメ『ルパン三世』の、あのカッコいいテーマ曲の作曲・編曲でも知られているヒトですが、あまり知られていないのは、実家が、「ローマ風呂」で有名な熱海の老舗旅館「ホテル大野屋」というコトと、石坂浩二が、慶應義塾高校〜慶應義塾大学法学部時代の同級生だというコト……。秀才なんですね。

 それにしても、この薬師丸ひろ子のジャケットはズルイです。まあ、主題歌というかサントラなので、それでいいのですが……、町田義人の写真にしなかったコトは正解ですね……。

 そんなコトはともかく、その大野雄二書き下ろしの映画主題歌『戦士の休息』も、オリコン・シングル・チャート最高位6位とヒット。下降クリシェのベースラインに乗った(Aメロはスケールトーンで下がり、サビの真ん中では半音で下がる)切ない極上のメロディーに、町田義人の抜群の声とソウルフルな熱い歌唱で、ココロにグッと響いてくる曲です。

 この歌、間奏のギターソロを挟んで、たったのワン・ハーフ、つまり、1.5 コーラス、「1番」と「サビの繰り返し」しかありません。曲尺は約3分半ですが、イントロや間奏、アウトロを抜くと、実際、歌があるのは2分20秒くらいです。スゴイです。

 何がスゴイかって、そのたったワン・ハーフのサイズなのに、ちゃんと感動的な曲で、しかもヒットする曲を作れているってコトです。最近の J-POP の多くは、歌詞はダラダラ長いし、構成もよくわかんないし、5分も6分もあるし……、まったく、最近の若いもんときたら……。

 メロディだけでなく、歌詞も秀逸です。人間として避けられない、永遠の別れのシーン、普遍的なテーマが描かれたこの歌詞、たった 1.5 コーラスでも十分過ぎるくらいの説得力です。
 サビの一番おいしいメロディ、2拍3連のところを、1番と繰り返しの2回目が「な〜い〜か〜ら〜」で、ちゃんと揃えてあるところも、さすがなところです。

 この作詞は、青い三角定規『太陽がくれた季節』、岩崎宏美『聖母たちのララバイ』、中村雅俊『時代遅れの恋人たち』『ふれあい』、矢沢永吉『時間よ止まれ』、野口五郎『グッド・ラック』、堀内孝雄&滝ともはる『南回帰線』などを書いた山川啓介。井出隆夫というペンネームで「NHK みんなのうた」の『北風小僧の寒太郎』なんかも書いていたりします……。

 ちなみに、この約4年後に、山川啓介が書いた『聖母たちのララバイ』にも、この『戦士の休息』と同じく、歌詞に「兵士」が出てきます。なかなか歌詞には使おうとは思わないし、使いづらい言葉です。

 ほかに、歌詞に「兵士」が登場する曲は、たとえば、作詞:谷川俊太郎、作曲:武満徹の『死んだ男の残したものは』とか、ザ・タイガース『忘れかけた子守唄』(作詞:なかにし礼)、小室等『いま 生きているということ』(作詞:谷川俊太郎)、中島みゆき『4. 2. 3.』くらいしか思いつきません。

 中島みゆきの『4. 2. 3.』は、ちょっと違うタイプのプロテストソングですが、他はだいたいが反戦歌で、『聖母たちのララバイ』や『戦士の休息』のような、フツ〜の歌で使われているのは珍しいです。

 そして、この歌には、町田義人のボーカルが欠かせません。他の人が歌っても、まあ、映画効果で、それなりにヒットはしたでしょうが、これほどの説得力は持たなかったのではないでしょうか……。豊かな声の響きと、コトバのヌケが素晴らしく、伸びやかです。

 Aメロは、やさしく、言葉を語るように歌い、サビでは一転、パワフルに張って、「この背中を」「熱い涙」はソウルフルに歌い、「見られたくはないから〜」「知られたくはないから〜」を素直にストレートに歌って、聴いているヒトを気持ちよくさせてくれます。

 何より、声が独特です。
 一般的に、日本人の歌声の響きというのは、木管楽器的なカンジがしますが、この町田義人というヒトは、日本人には珍しくガイジンみたいな響きで、金管楽器的です。ちなみに、ほかに、日本人で金管楽器的な声のヒトで思いつくのは、井上陽水くらいですかね……(「ささきいさお」とか「尾崎紀世彦」もガイジン的な声ではありますが)。

 町田義人は、ご存知のように、『白いサンゴ礁』がヒットした「ズー・ニー・ヴー(Zoo Nee Voo )」のボーカリストでした。「ズー・ニー・ヴー」のデビューアルバムは『ズーニーヴーの世界 / R&B ベスト・ヒット』というタイトルで、『机の上の戦争』と『ハイウェイの孤独』という日本語オリジナル曲が2曲収録されていますが、ほかの10曲は、『ホールド・オン』『青い影』『マイ・ガール』『リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア』『マンズ・マンズ・ワールド』『ドック・オブ・ザ・ベイ』など、ホントに R&B のヒット曲カバーだったりします……。

 余談ですが、「ズー・ニー・ヴー」の4枚目のシングル『ひとりの悲しみ』は、曲名と歌詞を書き換えて、のちに、尾崎紀世彦が『また逢う日まで』として歌ってヒットした曲だったりします……。どっちも、作詞:阿久悠、作曲:筒美京平です。

 町田義人は、「ズー・ニー・ヴー」を脱退した後は、テレビの主題歌、アニメソングなどや、とくにテレビCM曲をなどはたくさん歌っていましたから、名前は聞かないでも、歌声は、自然とたくさん耳にしていたハズです。

 さて、この『戦士の休息』を初めて聴いた時、とくに印象的だったのが、イントロのなんとも言えない雰囲気のツイン・リードのギターです。
 このクリーンの2本は、定位がやや左に寄っていて、曲中でもオブリガードで入っています。で、右寄りには、ディストーションのオブリガードとソロ、クリーンも歪みも、いずれもシングルコイルのハーフトーン・サウンド。(このへんは、読者の中に、わりとギターマニアがいるっぽいので書いていますが、なんのことやらわからないヒトは流してください)

 このギターを弾いているのは、沢田研二『危険なふたり』のイントロのソロとか、山下達郎『あまく危険な香り』やアン・ルイス『恋のブギ・ウギ・トレイン』などで、ファンキ〜メロウなカッティングを聴かせてくれている、スタジオ・ミュージシャンの松木恒秀。

 ほかにも、最近は「80年代 シティ・ポップ」とか呼ばれだして、世界的にファンがいる、吉田美奈子、佐藤博、松原みき、大貫妙子、山下達郎らのアルバムで、大村憲司とともにメロウなプレイを披露していて、知る人ぞ知るスタジオ・ミュージシャンのギタリストです。

 でも、そもそも、スタジオ・ミュージシャンなんて、フツ〜のヒトは知らないと思います……。

 この当時、歌謡曲やフォーク、ニューミュージックが全盛だった1970年代〜80年代のエレキギター・サウンドは、実は、ほんのひと握りのギタリストによるものでした。数えるほどしかいないので、名前は知らなくても、音は、必ず耳にしているハズです。

 松木恒秀や大村憲司のほかに、水谷公生、芳野藤丸、矢島賢、井上堯之、松原正樹、今剛……というヒトたちで、たとえば、芳野藤丸や松原正樹らは、スタジオでレコーディングした曲が、それぞれ1万曲以上とも言われています……。1万曲ですよ! 1万曲! トンでもない数です!

 だから、松木恒秀による『危険なふたり』のイントロを歌えるのと同じように、キャンディーズ『春一番』(水谷公生)、井上陽水『夢の中へ』(芳野藤丸)、アリス『遠くで汽笛を聞きながら』(矢島賢)、『カナダからの手紙』(松原正樹)などのイントロも歌えちゃうでしょう……。

 心に残る曲というのは、たとえばイントロとか、アレンジも含めて好きだったりします。好きな曲のイントロを聴いただけで、ワクワクするとか、つい口ずさんでしまったりとか……。
 こういう職人のようなヒトたちが、ワタシたちの心に残る名曲のサウンドを作ってくれているんですね〜。

 ギタリスト・マニアの方はよくご存知でしょうが、たとえば、松原正樹や今剛のソロは、音色が特徴的なので、松田聖子の『チェリーブラッサム』と『夏の扉』のギターの音が……、松山千春の『長い夜』とユーミンの『恋人はサンタクロース』のギターの音が、それぞれ似ていることにも気が付きます。

 以下、マニア向けに、ほかにも少し書いておきます。

★ 水谷公生
『春一番』
『年下の男の子』
『また逢う日まで』
『喝采』
『女はそれを我慢できない』

★ 松木恒秀
『危険なふたり』
『あまく危険な香り』
『恋のブギ・ウギ・トレイン』
『ルパン三世のテーマ』

★ 芳野藤丸
『木綿のハンカチーフ』(アルバムは矢島賢)
『夢の中へ』
『いちご白書をもう一度』
『ひとり咲き』
『君の瞳は10000ボルト』
『ギャランドゥ』
『よろしく哀愁』
『天城越え』

★ 矢島賢
『遠くで汽笛を聞きながら』
『横浜イレブン』
『男の子女の子』
『少女A』
『プレイバックパート2』
『たそがれマイ・ラヴ』
『ロックンロール・ウィドウ』
『青い珊瑚礁』
『タッチ』

★ 井上堯之
『時の過ぎゆくままに』
『太陽にほえろ!のテーマ』

★ 松原正樹
『カナダからの手紙』
『真夜中のドア〜Stay With Me』
『中央フリーウェイ』
『案山子』
『長い夜』
『恋人はサンタクロース』
『渚のバルコニー』
『愚か者』
『さよならの向こう側』
『微笑がえし』
『ルビーの指環』(今剛と二人)

★ 今 剛
『チェリーブラッサム』
『夏の扉』
『ルビーの指環』(松原正樹と二人)

(2020年7月8日 西山 寧)


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