第37回 斉藤由貴「悲しみよ こんにちは」(1986年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

色あせない昭和の名曲
便利でないことが、しあわせだった、あのころ …

週刊・連載コラム「なつ歌詞」

時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第37回 斉藤由貴「悲しみよ こんにちは」(1986年)

平気 涙が乾いた跡には
夢への扉があるの ……
悩んでちゃ行けない ……
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斉藤由貴「悲しみよ こんにちは」

斉藤由貴「悲しみよ こんにちは」(3:56) B面「お引越し・忘れもの」(作詞: 斉藤由貴)
作詞:森雪之丞、作曲:玉置浩二、編曲:武部聡志
1986年(昭和61年)3月21日発売 EP盤 7インチ シングル レコード (45rpm、ステレオ)
7A-0562 ¥700- CANYON / キャニオンレコード

CX-TV系放映「めぞん一刻」主題歌
資生堂「モーニングフレッシュ」イメージ・ソング

 斉藤由貴、5枚目のシングルで、フジテレビ系アニメ「めぞん一刻」オープニング主題歌と、資生堂「モーニングフレッシュ」のテレビCMソングになりヒットした曲。
 斉藤由貴は、1984年『少年マガジン』(講談社)第3回「ミスマガジン」でグランプリとなり、明星食品「青春という名のラーメン・胸騒ぎチャーシュー」のテレビCMでデビュー。翌1985年2月、シングル『卒業』でキャニオンから歌手デビューし、いきなりの大ヒット。また、富士フイルムのカセットテープなどの新ブランド『AXIA(アクシア)』のテレビCMにもイメージ・キャラクターとして出演し、CMソング『AXIA〜かなしい小鳥』も歌う。さらに、同年4月からは、フジテレビ系『スケバン刑事』で連続ドラマ初主演、主題歌『白い炎』も歌い、ドラマも主題歌もヒット。
 翌1986年3月に『悲しみよこ んにちは』が発売され、オリコン週間最高3位、年間19位のヒット。4月からは、NHK連続テレビ小説『はね駒』のヒロインを演じ平均視聴率40%を記録するなど、人気と知名度が全国的に定着。年末の第37回「NHK紅白歌合戦」にも初出場し、当時最年少の紅組キャプテンを務め、『悲しみよこ んにちは』を歌唱。
 その後、ドラマや映画、ミュージカル等の舞台でも活躍。1989年には、自身の主演ドラマ『湘南物語』の主題歌として井上陽水のカバー曲『夢の中へ』をリリースし、自身最大のヒット曲となった。
 2015年には、デビュー30周年を記念したニューアルバム『ETERNITY』(ヤマハ ミュージック コミュニケーションズ)をリリースし、2016年は、NHK大河ドラマ「真田丸」に出演。女優のみならず、詩、小説、エッセイなど著作も多く、また、テレビ番組のナレーションなども担当するなど幅広く活動。今年、2020年は、歌手デビュー35周年なり、8月29日には、「Billboard Live YOKOHAMA」にて、アニバーサリーイヤー・ライブが開催予定。


心に残る歌は、あとから気づくもの……

アイドル歌手が、ひとりで勝負でしていた時代……
魔性のキャラクターをよく理解していた制作陣による傑作!


 斉藤由貴といえば、真っ先に、「てめえら、許さねぇ!」の麻宮サキ、『スケ番刑事(デカ)』を思い出す方も少なくないでしょうが、ワタシの場合、なんと言っても、富士フイルムのカセットテープ『AXIA(アクシア)』のテレビCMです。

 もちろん、斉藤由貴も、抜群にキュ〜トだったのですが、それよりも、CMソングとして使われていた曲『AXIA〜かなしい小鳥』に衝撃を受けました。
 だって、いきなり歌い出しが「♪ごめんね 今までだまってて 本当は彼がいたことを〜」ですもの……。なかなかデビューしたてのアイドルに、しかもテレビCM曲で、こんなコト歌わせられません。メロディもキャッチ〜で、言葉が強烈に耳に残りました。

 詞を書いた銀色夏生(「ぎんいろ なつを」女性です)も、事務所やレコード会社、広告代理店もスゴイですが、なにより、それをサラッと、いやらしく感じさせずに歌えてしまう斉藤由貴……。まわりのスタッフに共通認識を持たせるような、強烈な魅力があったのでしょう。

 当時、カセットテープ(正式にはコンパクト・カセット)では、ソニー、TDK、日立マクセルの3強に大きく水を開けられていた『FUJI CASSETTE』でしたが、1985年に、この『AXIA』ブランドを立ち上げ、イメージ・キャラクターに斉藤由貴を起用したことで、中高校生から高い支持を受け、それまで5パーセント前後であった市場シェアが、なんと20パーセント台にまでなったそうです。

 で、このCM曲『AXIA〜かなしい小鳥』は、CMのために書き下ろされた曲で、1985年6月21日に発売された、斉藤由貴のファースト・アルバム、その名も『AXIA』に収録されました(A面5曲目)。シングル曲ではなかったんですね〜。その後、6枚目のシングル『土曜日のタマネギ』のB面に、リアレンジされたバージョンが収録されていますが……。

 このアルバム『AXIA』のA面1曲目は、同年2月にシングルとして発売されたデビュー曲の『卒業』。コレもいい歌ですね〜。だって、「♪卒業式で泣かない〜と 冷たい人と言われそう〜」ですもの。それで、「♪もっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの」な〜んて、いかにも斉藤由貴が、トボケた真顔で言いそうです……。やっぱり、制作陣が優秀だったんですね〜。

 この詞を書いた松本隆も、『AXIA』の銀色夏生も、「斉藤由貴に何を言わせたら魅力的なのか?」を実に良くわかっています。あの……何を考えているかサッパリわからない目で、じっと見つめられて男を狂わせてしまう魔性の魅力……、そりゃパンツだってかぶってしまうというもんです。
 斉藤由貴に「お嬢様アイドル」的な、「ぶりっ娘」な歌詞を歌わせても、タブン、ここまでは売れなかったのではないでしょうか。
 そういえば……、当時、斉藤由貴の『卒業』のテレカが、100万円以上の値段で売られていたりもしましたね……。

 ちなみに、曲名で『卒業』と言うと、人によって、斉藤由貴だったり、菊池桃子だったり、尾崎豊だったりしますが、これら3曲は、全て1985年(昭和60年)の発売です……。ほかにも、倉沢淳美も『卒業』を出してたりして、この年は、『卒業』ブ〜ムだったんですね〜。毎年、いわゆる「卒業ソング」が発売されるようになったのも、この頃からだったりします。

 なにしろ、『卒業』というタイトルの曲は、JASRAC で調べると201曲もありますし、「卒業なんちゃら〜」まで含めると、801曲も出てきます……。やっぱり、ドラマにしやすいシチュエーションなんであすね。
 ワタシの場合は、『見ごろ食べごろ笑い頃』の中でやってたドラマ『美しき伝説』のオープニングテーマ曲で、キャンディーズが「♪そして あなたとは 長すぎたお友達〜」と歌ってた『卒業』ですかね……。

 この年の、オリコン年間ランキングでは、斉藤由貴『卒業』が34位、菊池桃子の『卒業-GRADUATION-』が11位、斉藤由貴のアルバム『AXIA』が29位で、尾崎豊の『卒業』が入ったアルバム『回帰線』が33位でした。

 そんなこんなの翌年(やっと本題)、1986年(昭和61年)に、斉藤由貴の5枚目のシングル『悲しみよ こんにちは』は発売されました。歌詞もメロディもアレンジも、実に良くできた名曲です。ワクワクする、元気になれる歌です。

 フジテレビ系アニメ『めぞん一刻』のオープニング曲と、自身もイメージキャラクターとして出演した資生堂『モーニングフレッシュ』のテレビCMソング(朝シャン用シャンプー、曲の流れないCMもあった)という、強力なダブルタイアップが付いたこともあり大ヒット。この曲で、同年、初の『NHK紅白歌合戦』出場を果たしました。

 この年、上期の NHK連続テレビ小説『はね駒』のヒロインを演じたこともあって、紅白では、紅組のキャプテン(司会)にも当時、最年少で抜擢され、歌手の出番では『悲しみよ こんにちは』を歌唱(対戦相手は吉幾三で『雪國』)。
 ちなみに、紅組トリは、石川さゆりの『天城越え』、大トリは、森進一で『ゆうすげの恋』。トップバッターは、荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)』と、少年隊『仮面舞踏会』……。

 そうです……、鋭いみなさんならモ〜お気づきのことでしょう。白組のキャプテンで司会役は加山雄三で、少年隊の『仮面舞踏会』の曲紹介の時に「紅白初出場!少年隊『仮面ライダー』!」と間違えてしまった、あの有名な事件があった年です。

 『悲しみよ こんにちは』は、斉藤由貴の2枚目のシングルだった『スケバン刑事』の主題歌白い炎』と同じ制作陣、作詞:森雪之丞、作曲:玉置浩二、編曲:武部聡志によって作られた曲です。
 玉置浩二って、ホントにイイ曲を書きますね〜。香西かおり『無言坂』、中森明菜『サザン・ウインド』、V6『愛なんだ』なんかも、玉置浩二の書き下ろし提供曲です。

 一方、作詞の森雪之丞は、『POISON』『バンビーナ』『スリル』など布袋寅泰の多くの曲や、中原めいこ『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』、『キン肉マン Go Fight!』……、最近では、氷川くんの『限界突破×サバイバー』なんかも書いています。

 実は、『悲しみよこんにちは』というタイトルの曲は、それまでにもあって、1972年に発売された麻丘めぐみの2枚目のシングル曲も同名です(デビュー曲『芽ばえ』と同じく、作詞:千家和也、作曲:筒美京平コンビ)。
 で、おそらく、フランスの小説家、フランソワーズ・サガンの小説『Bonjour tristesse』の邦題が『悲しみよこんにちは』だったことから使われたのだと思われます。
 ちなみに、フランソワーズ・サガンはペンネームで、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の登場人物 「Prince de Sagan」から取られていたりします……。

 2006年の森雪之丞の作品を集めたコンピレーション・アルバム『Word of 雪之丞』のセルフ・ライナーノーツの中で、森雪之丞 自身も、フランソワーズ・サガンがもとになっていると書いています。
 『悲しみよ こんにちは』の曲名自体もそうですが、そういう感情を擬人化したフレーズ、たとえば歌詞の中にも出てくる「私の元気 負けないで」とか、「今度 悲しみが来ても 友達迎える様にわらうわ」とかは、浜口庫之助が作り坂本九が歌った『涙くんさよなら』のオマージュだとも書かれています。

 ちなみに、この前の年に、玉置浩二は、安全地帯として『悲しみにさよなら』(作詞:松井五郎)をリリースして、オリコンの年間9位に入るヒットになっていますが、もしかしたら、それもあって発想された『悲しみよ こんにちは』だったのかも……。

 そして、当時、不思議系アイドルと言われていた斉藤由貴のフワフワしたボーカルが、この曲の極め付きです。
 王道のアイドルソングとして完成されている作品ですから、たとえば、松田聖子とかが歌ったとしても、うまく歌ったでしょうし、おそらくヒットしたでしょう。でも、聖子ちゃんだと、サビとか、押しが強くなりすぎてしまう気もします……。

 その点、斉藤由貴のボーカルは、サビの張って歌っているところでも、フシギと聴いててチカラが入らない柔らかさがあります。素直なストレートボイスも、言葉がよく伝わってきます。だから、この曲には、やっぱり斉藤由貴の歌声です。
 もしかしたら、聖子ちゃんの方が「うまく」歌えたかもしれませんが、ヒトは、必ずしも「うまい」ものを「好き」になるワケではありませんから。

 ところで……、気が付くと、いつも間にか、「アイドル」とは「アイドル・グループ」を意味する言葉になってしまい、ひとりで歌う「アイドル歌手」がいなくなってしまいました……。
 「最後のアイドル」と呼ばれたのが、1990年デビューの高橋由美子ですが、ワタシは、「最後のアイドル歌手」は、2001年に歌手デビューした松浦亜弥ではないかと思っています。

 いずれにしろ……、昔の「アイドル歌手」は、大勢でなく、ひとりで勝負できました。ダンスなんかもいらなくて、ビジュアルと歌の魅力、そして、イントロからよくできた楽曲があったから、それだけで楽しめました……。

 心に残る歌は、その時ではなく、あとから気づくもんです……。忘れていたころに、何十年も前の歌が、不意に頭の中に浮かんできてしまう……、昔は、そんな歌がたくさんありました。

 そのヒトによってですが、ワタシにとっては、『AXIA〜かなしい小鳥』も『卒業』も、そして『悲しみよ こんにちは』も、そんな1曲です……。

(2020年6月10日 西山 寧)


斉藤由貴「悲しみよ こんにちは」歌詞を見る(聴く)!


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収録CD「プラチナムベスト 斉藤由貴」ポニーキャニオン


斉藤由貴 ヤマハ ミュージック コミュニケーションズ

斉藤由貴 オフィシャルサイト(東宝芸能)


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