第36回 ハニー・ナイツ「ふりむかないで」(1972年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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第36回 ハニー・ナイツ「ふりむかないで」(1972年)

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ハニー・ナイツ「ふりむかないで」

ハニー・ナイツ「ふりむかないで」(3:56) Key=Cm  B面(side-2)「愛するハーモニー」
作詞:池田友彦、作曲:小林亜星、編曲:筒井広志
制作担当:佐藤裕明、録音担当:武井一夫、提供:ライオン油脂株式会社
1972年(昭和47年)4月10日発売 EP盤 7インチ シングル レコード (45rpm、ステレオ)
US-744(SU45-535) ¥500- ユニオンレコード(テイチク)

1972年発売 LP「ハニーナイツ ファーストアルバム ふりむかないで/あなたのためなら」(ULP-2007 / UNION RECORDS)収録
ライオン「エメロン クリームリンス」CMソング

 リード・ボーカルの葵まさひこ、野村忠久、宍戸二郎、赤間寛の4人によって、1958年に結成されたコーラス・グループ「ハニー・ナイツ」のシングル曲。1970年に、CM用として書き下ろされた楽曲で、「ハニー・ナイツ」が歌ったものが「エメロン クリームリンス」のCMソングとして放送。CMが人気となったため、1972年にシングルレコードとして発売され、オリコン最高位3位、年間24位のヒットとなる。同年リリースのファーストアルバムにも収録。シングルバージョンの歌詞は6番まで、アルバムバージョンでは12番まで歌われている。
 その後、1983年には「ハニー・ナイツ」の葵まさひこが、2002年には郷ひろみが、同シリーズのCMで同曲を歌いっているほか、2002年には「三浦弘とハニーシックス」によってもカバーされている。「ハニー・ナイツ」は、1974年の解散までに、CMソングやテレビ主題歌等を多数歌い、その総数は5000曲にも及ぶ。


革命的なCMの書き下ろし曲!
当時、電通社員だった広告マンが作詞した、
逆説的な表現が秀逸な歌!


 1970年(昭和45年)3月に、花王石鹸が『メリット』を発売し、5月には、ライオン油脂(ライオン)が『エメロン クリームリンス』を発売しました。

 「♪ふりむ〜かないで〜」の歌が流れる中、街頭で綺麗な髪の女性の後ろ姿をカメラが追い、インタビュアーの船山喜久弥が「エメロンクリームリンスです、ちょっと後ろを振り向いて」「逃げないで」「差し上げますから」などと言って振り向かせる『エメロン クリームリンス』のテレビCMは、7年くらい放送されていたようなので、55歳以上のヒトであれば、全員、知っているハズ。

 タレントではなく一般の女性を使い、かつ、ドキュメンタリータッチで作られたCMは、当時、実に新鮮で、大きな話題となりました。時には、ハンディカメラが逃げる女性を追っかけたりもするので、映像はブレたりもするのですが、そこがまたリアルで、まるで、カメラが視聴者の目となったかのような映像に、思わずひきこまれてしまいました……。振り向いた時の顔も気になりましたが、予想のつかないリアクションも楽しめる、そんなCMでした。

 もちろん、選ばれたヒトばかりがオンエアされていたんだと思いますが、当時、田舎に住んでいたワタシは「都会には、キレイなヒトがたくさんいるんだな〜」なんて思っていました……。

 ロケ地も、最初は東京でしたが、CMが話題となるにつれ地方都市にも進出し、そのうち、ロケ地の情報が口コミで広がったりして、撮影されることを期待して集まる女性もいたそうです……。
 ちなみに、街頭で声をかけていたインタビュアーの船山喜久弥は、三船敏郎の「男は黙ってサッポロビール」などのナレーションをしていた、もともとはナレーターさんです。

 このCMの人気もあり、『エメロン クリームリンス』は大ヒット商品となり、発売1年でシェア30%にもなったそうな……。

 とにかく、見えないもの、隠されているものは、見たくなるものです。このCMは、後ろ姿だけを最初に見せて、「カオが見たい!」と無意識に思わせる人間の心理を実にうまく利用しています。

 ヒトは見えない部分を勝手に補完して、見えない部分を自分の理想にすりかえる「理想化」というコトを無意識にやってしまうという性質を持っています。ワタシたちの脳の特性ということらいいのですが、マスクをした女性が、みんな美人に見えたりするのはこのためです。
 なので、CMで後ろ姿を見せられたワタシたちは、それぞれに、理想のカオを無意識に想像させられていたというワケです……。

 余談ですが、そういう風に、脳が勝手に補完したり、錯覚を起こしたりすることも多く、「だまし絵」や「ビックリハウス」なんかも、この特性を利用していますし、もっと身近なところで言えば、洋服で「白は膨張色」とよく言われるように、白いものと黒いものだと、同じ大きさでも白のほうが大きく見える「錯視」という現象が起こります。

 たとえば、白と黒の石を使う囲碁の碁石は、正式なモノだと、白石が直径21.9mm(7分2厘)、黒石が直径22.2mm(7分3厘)と、白の方が、ほんのちょっと小さく作られていたりします。江戸時代に使われていた碁石が現存していて、実際そうなっているらしいです。というコトは、当時のヒトが、この「錯視」を起こす人間の脳の性質をわかっていたということになります……、昔のヒトってスゴイですね。

 で、この有名なCMで流れてた曲、ハニー・ナイツが歌った「♪ふりむ〜かないで〜 ○○のひ〜と〜」は、このCMのために小林亜星が書き下ろした曲で、歌詞は、当時、電通社員だった池田友彦が書いたもの。1972年に、シングルレコードとして発売され、オリコンの年間24位、37万枚異常を売り上げるヒットとなりました。

 でも、実は、このハニー・ナイツの曲の前に、半年ほど、別の曲が使われていました……。知ってるかな〜? 作曲は同じく小林亜星ですが、こっちはメジャー調の曲で、「♪ふりむかないで〜 素敵な髪のあなた〜 ふりむかないで〜 お願いだから〜」という歌詞の曲……。覚えてるかな〜?

 おそらく、レコード化はされていないかと思われますが、歌っていたのは、ザ・カーナビーツの二代目ボーカリストだったポール岡田です。カーナビーツのあと、ミュージカル「HAIR」に出演したり、ソロやデュエット・グループ「パイシス」で活動していたヒトです。
 余談ですが、このヒト、ビーインググループ創業者でヒットメイカーの長戸大幸と大学時代にバンドを組んでいたそうな……。

 最初は、その「ポール岡田」が歌った曲がテレビCMで使われていて、ハニー・ナイツの方の曲は、後から、ラジオの全国キャンペーン用として作られたようです。
 それが、評判が良かったからなのでしょうか、どういうワケかわかりませんが、半年後くらい経った、1970年11月ころからは、ポール岡田が歌った曲に代わって、このハニー・ナイツの『ふりむかないで』がテレビCMでも使われるようになりました。

 で、どちらの曲も作曲を担当した小林亜星はと言えば、CMソングで有名になった作曲家です。ブリジストン『どこまでもいこう』、日立グループ『日立の樹(この木なんの木)』、明治製菓『明治チェルシーの歌』、レナウン『ワンサカ娘』、積水ハウス『積水ハウスの歌』……などなど、ものすごい数のCMを書いています。CMソングの天才です。
 最近でも、「♪あなたとコンビニ ファミリーマート〜」とか、「♪くら〜し安心 クラ〜シアン」なんかもそうです。ちなみに、CMソング以外にも、都はるみ『北の宿から』、ダ・カーポ『野に咲く花のように』、童謡の『あわてんぼうのサンタクロース』(作詞:吉岡治)、『魔法使いサリー』なんかも書いていたり。

 ところで、『ふりむかないで』は、たしかに、ムード歌謡曲調と言われれば、そんな気にもなりますが、なんだか独特の高揚感を当時から感じていました……。
 あらためて、よく聴くと、演奏は実にファンキ〜なカンジでリズムがハネていて、とくに、右チャンネルから聴こえるピアノは、思ってもみなかったようなテンション・コードをたくさん使ったオシャレな演奏だったりします。
 一度聴けば覚えてしまう耳に残るシンプルな歌詞とメロディに、ノリの良いファンキ〜なオケ、そして、葵まさひこのヌケが良く豊かな響きの色気のあるボーカルとくれば、それは、CMソングにならなかったとしても、きっとヒットしますね。

 ちなみに、編曲の筒井広志は、小林亜星のCMソングを多数アレンジしていたヒトで、『ピンポンパン体操』(作詞:阿久悠、作曲:小林亜星)なんかもそうですし、『カルビーかっぱえびせん』のCM曲は、自身の作曲だったりします。

 で、歌っている「ハニー・ナイツ」は、「ムード歌謡のコーラスグループ」みたいに思われていますが、実際は、CMソングや、『ウルトラマンA(エース)』『月光仮面は誰でしょう』『妖怪人間ベム』『ミラーマンの唄』などなど、テレビ番組の主題歌などを数多く歌っていて、その総数は5000曲にもなるそうです。
 なので、実態は「ムード歌謡のコーラスグループ」と言うよりは、同じようにCMソングの『光る東芝の歌』とか、番組主題歌『鉄人28号』とかを歌っていた「デューク・エイセス」に似た存在な気もします。スタジオ・ミュージシャン的な。

 レコード発売された曲では、この『ふりむかないで』が、ハニー・ナイツとしては最も有名な曲ですが、その次に知られているのは、1969年に発売された『オー・チン・チン(Oh! Chin Chin)』でしょう。あ〜アレね〜。ちなみに、コレも小林亜星作曲だったり……。

 そんなことはともかく、この曲の歌詞ですが、シングルレコードでは6番まで、「東京、札幌、仙台、名古屋、大阪、博多」が歌われていますが、歌詞カードには、その下にナゾの「補足」という記載があり、歌われていない「広島、金沢、高松」という3コーラス分が追加して書かれています……。当時の9大都市ですかね……。

 さらに、ハニー・ナイツのファースト・アルバム『ふりむかないで/あなたのためなら』に収録されているバージョンでは、12番まで歌われています。

 でも、実は、もっともっとあって、実際は、72コーラス分、つまり72都市分の歌詞が存在しています。北海道だけでも、「釧路、函館、帯広、小樽、旭川、網走」と6都市分ありますし、沖縄も、名護と那覇の2コーラス分あります。でも、72番まで歌われた音源は存在しません……。
 おそらく、CMロケのために、日本全国用意してあったのでしょうが、CMでは、結局、それぞれのご当地バージョンが使われたワケではなく、1番の歌詞で「○○の〜ひと〜」の地名だけが差し代わったモノが使われていましたね。

 ところで、CMで使われていた『ふりむかないで』は、15秒のCMにハメ込むために、かなり速いテンポで歌われていましたが、ハニー・ナイツのレコード化の際には、ワタシたちが聴き慣れている現在のテンポに落としてあります。なにしろ、CMは、たった15秒ですからね……。

 厳密に言えば、テレビの15秒CMの場合、音声を入れられるのは14秒間だったりします。CMの最初の0.5秒と、最後の0.5秒は、「ノンモン」(non-modulatio)と言われている無音状態を作らないといけないからです。テレビCMは、全てそうなっています。
 なので、CMが連続する場合には、1秒間の無音が生まれます。たった1秒なので、そう思って見ていてもなかなかわかりませんでが、そうなっています。

 この「ノンモン」なるものを作らないと、それぞれのCMの音声が全てつながってしまい、視聴者は切れ目がわからなくなってしまうからです。気がつかないようなたった1秒の空白ですが、とっても重要なんです。ちなみに、CM用の音楽も、欠けないように13.5 秒で作ったりします……。

 ハナシを戻します……。1970年から7年も続いたこのCMシリーズですが、1983年には、同じ『エメロン クリームリンス』のCMシリーズで、12年前に登場したヒトを探し出して再登場させる「ふりむかないで12年前の人 篇」が放送され、その時も、もちろん曲は『ふりむかないで』でした。
 しかし、ハニー・ナイツは、1974年に解散していたため、この時は、ハニー・ナイツのリーダーだった「葵まさひこ」の名前でクレジットされていました。
 また余談ですが、葵まさひこは、CMや主題歌の作曲もしていて、1972年に平浩二が歌った『バス・ストップ』(作詞:千家和也)の作曲と編曲もしていたりします。

 そして、2002年には、「エメロン 石鹸の香り シャンプー」が発売され、郷ひろみの歌唱で『ふりむかないで』が、再びCMソングに起用されたりしていましたが、「エメロン」ブランドは、2005年ころでなくなってしまいました。

 なにより、このCMの秀逸なところは、ナレーションやテロップの代わりに、CMソングにロケ地の地名を入れたことに加え、なんと言っても、「ちょっと後ろを振り向いて!」と言っているのに、CMソングの方は「♪ふりむかないで〜」と正反対のコトが歌われている点です。

 振り向くと、必ずキレイな女性が出てくるのですが、それでも、見たいような、見たくないような……、もしかしたら振り向かないかも……、とか、そんなドキドキ感を煽るような、敢えて否定形で書かれた歌詞です。ワタシたちのような凡人であれば、きっと「ふりむいて〜」とか書いてしまいます。

 いずれにしろ、このCM、今ならカンタンに出来るし、進化させれば今でもウケそうな手法ですが、でも、きっと、今だと逆にいろいろとメンド〜なコトになるんだろうな……、許諾とか権利とか……。

(2020年6月3日 西山 寧)


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収録CD 「魅惑の ムードコーラス」
収録CD「トリプルベスト ムード歌謡1」


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