第33回 島津亜矢「帰らんちゃよか」(2004年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

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第33回 島津亜矢「帰らんちゃよか」(2004年)

それでどうかい
うまくいきよっとかい ……
自分のやりたかこつば
少しは しよっとかい ……
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島津亜矢「帰らんちゃよか」

島津亜矢「帰らんちゃよか」(5:13) Key=Gm  C/W「娘に…」
作詞:関島秀樹、作曲:関島秀樹、編曲:南郷達也
2004年(平成16年)5月26日発売  マキシシングル CD TECA-11626 ¥1,048+税
テイチク・レコード / テイチク・エンタテインメント

ばってん荒川「帰らんちゃよか」(5:20) Key=Am
作詞:関島秀樹、作曲:関島秀樹、編曲:山田年秋
1996年(平成8年)6月21日 アルバム『生きたらよか』収録
KICX-413 キングレコード
※その後、シングルとしても何度か発売されている。

14歳で、故郷・熊本を離れて上京し作詞家の星野哲郎に弟子入りし、1986年(昭和61年)シングル「袴をはいた渡り鳥」でデビューした島津亜矢の36枚目のシングル。
1991年に5枚目のシングル「愛染かつらをもう一度」が30万枚を越えるヒット曲となり、その後も、『海鳴りの詩』『感謝状〜母へのメッセージ〜』『大器晩成』『独楽』など、ヒット曲多数。2001年には、「感謝状〜母へのメッセージ〜」で、NHK紅白歌合戦に初出場。以後、これまでに6回出場。二葉百合子の門下生でもあり、時代物の長編歌謡浪曲も人気。ポップスから洋楽まで、なんでも歌いこなし、その圧倒的な声量に、聴く人の心をゆさぶる演出力と歌唱力で大人気の歌手!


 日曜が母の日だったもんで、『新・BS日本のうた』でも、きのうの『うたコン』でも(ウラの『演歌の花道スペシャル』は録画しました)母の日特集をやっていました……。

 母の歌と言えば、「♪かぁ〜さんが〜 夜なべをして」の『かあさんの歌』をはじめ、『東京だョおっ母さん』(島倉千代子)、『岸壁の母』(二葉百合子)、『花街の母』(金田たつえ)、『おかあさん』(森昌子)、『母に捧げるバラード』(海援隊)などの誰もが知るヒット曲から、『かあさんへ』(吉幾三)、『海の匂いのお母さん』(鳥羽一郎)などなど、心に染みる名曲がたくさんあります。
 曲名に「母」と付いていない歌でも、山口百恵『秋桜』や、 Kiroro『未来へ』なども「母の歌」です。

 さだまさし には、『秋桜』のほかに、『無縁坂』も「母の歌」としてよく知られていますが、『案山子』や『親父の一番長い日』という「父の歌」もあったりします。
 でも、「父の歌」で他に思いつくのは、坂本九『親父』、かぐや姫『うちのお父さん』、村木賢吉『おやじの海』、吉幾三/千昌夫『津軽平野』くらいで、あんまり多くないです……。小金沢昇司の『ありがとう…感謝』など、父と母の両方を歌った名曲もありますが……。

 まぁ、「母なる大地」「母なる地球」などという言葉もあるように、やはり、母は父よりも大きな存在であり、女性の偉大さを表していると言えます。戦時中、兵士が死ぬ時に「おかあさん」と言うのも、日本に限らず万国共通のようです……。

 ちなみに、「兄弟」の歌では、かぐや姫『妹』、内藤やす子『弟よ』があり、「娘や息子」の歌には、永六輔や芦屋雁之助の『娘よ』、吉幾三の『娘に…』、加藤登紀子や杉田二郎の『ANAK (息子)』などがありますが、まあ、少ないです。マーケティング的に考えれば、狙い目のテーマかもしれません……もしかしたら。

 さて、歴史の長い日本語は、実に表現豊かな言語で、たとえば、英語で「私」は「 I 」しかありませんが、日本語だと、わたし、あたし、わたくし、ぼく、オレ、自分、あたい、わて、あて、うち……と、たくさんあったりします……。「you」だって、あなた、きみ、おまえ、あんた、きさま、あんさん、おたく、おたくはん、あんさん……と、同様。

 で、「お母さん」の呼び方も、アメリカなら「マミ〜(mommy)」か「マ〜ム(mom)」ですが、日本語だと、お母さん、母さん、おふくろ、かあちゃん、ママ、おかあ、おっかぁ、おかん、おっかん……と、やっぱりイロイロあります。
 方言が入るともっとヤヤコシくなり、アンマー、おかあはん、かっちゃん、かかどん.……、たとえば、庄内弁だと「がが、んま、なな、あば、ががちゃ、んまちゃ、かっちゃ、おがちゃ、かがはん、おがはん」などと、よくわかりませんが、各家庭で様々な呼び方をするそうです.……。

 方言には、独特の味わいがあり、標準語にするとニュアンスが違ってきてしまったりするものもあります。 実際、『標準語に訳しきれない方言』という本も出ていて、そこには、「ひと言で言い表せない感情や状況などを的確に言い当てた言葉が方言の中にはある」と書かれています。「かちゃくちゃね」「えずくろしい」「ぬちぐすい」「押ささった」「てきない」……。

 ず〜っと津軽弁で訛っていた寺山修司も、「肉声のひびき」の響きに近づけるために、方言を使ったり、訛りを入れたりしていました。
 もっとも、ネイティブの津軽弁を聞いても、ワタシにはサッパリわからないどころか、日本語にすら聞こえなかったりしますが……。

 しかし、去年、吉幾三が津軽弁で歌った『TSUGARU』という曲が若者にもウケていたように、意味はわからなくても、津軽弁はフランス語みたいに音楽的で心地よかったりします……。
 青森を訪ねた司馬遼太郎は、「津軽や南部のことばを聞いていると、そのまま詩だと思うことがある」と書いていたりもします。

 だいぶ前に、「♪やんだたまげたな〜」の『麦畑』がヒットしたこともありましたが、最近(?)でも、NHKの朝ドラ『あまちゃん』の影響で若者が方言を使うようになったり、東日本大震災のあと、千昌夫が言う「がんばっぺし〜!」の言葉に励まされたり、オリンピックのカーリング女子たちの「そだね〜」など、方言には、人の心に強く印象付けるチカラがあります。

 ちょっと前には、『方言彼女。』という番組が人気になったり(本も出てます)、出身地の方言で接客してくれる『方言女子』というキャバクラもあったりまします……。
 「よかと〜」「めっちゃ好いと〜と」などと言われたいものです……。

 とにかく、方言からは、その土地の出身者でなくとも、あたたかさを感じます。共通語では言い換えのきかない方言と訛りには、豊かな感情が隠れていて、人の心を動かすチカラがあります。

 曲の誕生から21年の時を経て、2015年の『NHK 紅白歌合戦』で歌われた島津亜矢の『帰らんちゃよか』(かいらんちゃよか)は、ご存知のように熊本弁で歌われています。島津亜矢には『感謝状〜母へのメッセージ』という母を歌った名曲もありますが、この『帰らんちゃよか』も、両親がテーマの歌です。
 1番が母親、2盤が父親の言葉で語られ、親が寂しく感じながらも、子を思い、あえて「帰ってくるな、帰るところはないと思ってがんばれ」と歌われています。

 この歌のフシギなところは、両親のキモチを代弁した歌であるはずなのに、また、親と子、両方の気持ちがわかるような歳になっても、どうしても子供の方のキモチで聴いてしまっているジブンに気がついたりします……。いくつになっても子供の気持ちで、母親を思い出させる歌です。

 『帰らんちゃよか』は、もともと、1979年にテイチクからデビューした熊本県出身のフォークシンガーであり俳優としても活躍した関島秀樹が、1995年に作った『生きたらよか』という曲です。
 それを聴いた、同じく熊本県出身の九州では有名なローカル・コメディアン「ばってん荒川」(博多華丸大吉もネタにしてます)が気に入り、タイトルを『帰らんちゃよか』に変えて、1996年に、自身の40周年記念ベストアルバム『生きたらよか』に収録してキングレコードからリリースされました。

 さらに、その「ばってん荒川」が歌う『帰らんちゃよか』を聴いて感動したこれまた熊本県出身の島津亜矢が、「ばってん荒川」に「私にもこの曲を歌わせて下さい」と頼んだところ、「お前ならよかたい!大切に歌わなんぞ!」と快諾され、2004年に、テイチクレコードからシングルとしてリリースされた……、という、熊本県出身の3人の奇跡とも言える出会いで今に至る曲です。

 ちなみに、2004年の島津亜矢のシングルでは、最初、『帰らんちゃよか』がB面(カップリング)で、吉幾三が1994年にリリースしたシングル『娘に…』のカバーがA面でしたが、のちに、A B面が入れ替えられ、今は『帰らんちゃよか』がA面になっています……。なので、同じジャケット写真ですが、『娘に…』がA面……というか、大きく右側に書かれているレアなジャケットも存在しています……。(その後、『帰らんちゃよか』と『感謝状〜母へのメッセージ〜』というステキなカップリングのシングルもリリースされています)

 ところで、関島秀樹が歌う『生きたらよか』と、ばってん荒川と島津亜矢が歌った『帰らんちゃよか』は、それぞれ、歌詞もメロディもちょっとずつ違っていたりしますし(ばってん荒川と島津亜矢のバージョンは、かなり近いですが)、アレンジも、もちろん歌い方も違います。

 関島秀樹の『生きたらよか』は、いわゆる「フォークっぽい語り調」で、それはそれで良いのですが、ばってん荒川と島津亜矢のバージョンは、より音楽的に昇華され、よりポピュラリティがある作品になっています。

 島津亜矢が感動して直訴したくらい「ばってん荒川」の歌う『帰らんちゃよか』も、説得力がありイイのですが、いかんせん、ローカルタレントでしたし、コメディアンですし、だいたい、およね婆さんの扮装でしたから、九州を中心に一部では絶大な人気ではありましたが、なかなか全国区にはなりませんでした……。

 それが、南郷達也による歌謡曲のアレンジになり、抜群の歌声と表現力で、誰もが楽しめる歌謡曲として完成させたのが島津亜矢だと言えます。
 まさに、熊本県出身の3人によって作り上げられた曲だと言えるのではないでしょうか……。

 余談ですが……、2004年「関島秀樹 デビュー25周年全国ツアー」の熊本県荒尾市での公演では、ただ一度だけ、「関島秀樹・ばってん荒川・島津亜矢」3人のコラボが実現し、『帰らんちゃよか』が歌われています。

 また、同じく2004年、9月19日に放送された『BS日本のうた』(福岡県・サザンクス筑後 収録回)では、ばってん荒川と島津亜矢が、それぞれの『帰らんちゃよか』を曲続きで歌っています。感動的でした……。もちろん、ばってん荒川は、およね婆さんの扮装で、島津亜矢が歌っているときには、九州の人には見慣れた正座姿で聴いていました……(正座のままヒョイと机に上に飛び移ったりしていた)、もう一度見たいです……。

 さらに、2007年8月12日には、熊本市民会館で行われた RKK 熊本放送主催の「ばってん荒川追悼公演」で、関島秀樹のギターとハープに乗せて、島津亜矢が『帰らんちゃよか』を歌っています。
 本来、熊本放送が、ばってん荒川の芸能生活50周年のお祝い番組として企画したものでしたが、その前年の2016年に、ばってん荒川が亡くなってしまったため、追悼公演となってしまいました。

 2015年の『NHK 紅白歌合戦』では、カットサイズで歌われたのが残念です……。2010年の紅白で、8分近くになる『トイレの神様』が歌われたように(ホントは 9分52秒あるけど、歌詞はカットせずに、間奏とか歌のないところを詰めたバージョン)、フルコーラスで聴きたかったです……。
 『帰らんちゃよか』には、フルで聴くからこそ、伝わってくるもの、感じるものがあります。

 いずれにしろ、「そんなもん送らんでもよか!」と思うようなモノを送ってくるのが親というもの……、ですが、ジブンが親になってみると、結局、同じことをしてたり……。
 でも、田舎から送られてきたモノからは、そのモノ以上のありがたみを感じるものです。

 それにしても、「さだまさし」といい、「海援隊」といい、九州のヒトって、こういう歌を作るのがうまいですね……。

(2020年5月13日 西山 寧)


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