第31回 BaBe(ベイヴ)「I Don’t Know!」(1987年) -MUSIC GUIDE ミュージックガイド

色あせない昭和の名曲
便利でないことが、しあわせだった、あのころ …

週刊・連載コラム「なつ歌詞」

時代を思い出す扉が 歌であってくれればいい … (阿久悠)

第31回 BaBe(ベイヴ)「I Don't Know!」(1987年)

心で 光る 宝石は
誰も キャッシュじゃ 買えないさ ……

BaBe(ベイヴ)「I Don’t Know!」

BaBe(ベイヴ)「I Don’t Know!」(4:01) Key=G  B面「大人は判ってくれない」
作詞:森雪之丞、作曲:中崎英也、編曲::中崎英也、杉山卓夫
1987年(昭和62年)5月2日発売 EP盤 7インチ シングル レコード (45rpm、ステレオ)
¥700- 7A0722 CANYON(7A0722A) キャニオンレコード
フジテレビ系ドラマ「アナウンサーぷっつん物語」主題歌
オリコン 週間 最高5位/1987年度 年間62位

シングルカセットテープ(オリジナルカラオケ付き4曲入)10P3082 ¥1,000-
8cm シングル CD(2曲入)¥1,000-

 「近藤智子」と「二階堂ゆかり」による歌って踊る2人組アイドルユニット。ジャズダンス教室「一の宮はじめ ジャズダンスアカデミー」で出会った2人が、同ダンス教室主催のミュージカルに出演したことでスカウトされ、3人組ダンスボーカルユニット「ハートブレイカーズ」「斉藤さおり&ハートブレイカーズ」として活動した後、2人組の新ユニット「BaBe(ベイヴ)」となり、1987年2月にフジテレビ系ドラマ「あまえないでヨ!」主題歌となったマイケル・フォーチュナティのカバー曲「Give Me Up」で、キャニオンレコードからレコードデビュー。
 「I Don’t Know!」は、続く、同年5月発売2枚目のシングルで、フジテレビ系ドラマ「アナウンサーぷっつん物語」の主題歌となり、10万枚を超えるミリオンヒット。さらに、同年7月には3枚目のシングル「Somebody Loves You 〜明日の恋人〜」をリリースし、オリコン最高4位となるヒットとなり、その年、第16回「FNS歌謡祭」で最優秀新人賞を受賞。
 その後、3年間の活動期間中、シングル8枚、アルバム5枚をリリースするが、二階堂ゆかりの結婚がきっかけで、1990年3月31日に解散。
 1987年5月2日発売のシングル「I Don’t Know!」は、同年6月21日発売の1stアルバム「Bravo!」にも収録されているが、こちらは、大村雅朗が編曲をした別バージョンとなっている。


 まるで、歴史から消し去られたかのように最近は耳にしないのが、この曲。一時期、お笑いタレントの「いとうあさこ」がモノマネをしてましたが……。
 たしかに、BaBe の活動期間は短く、シングル8枚、アルバム5枚をリリースして、たった3年で解散。ミリオンとなったシングルは、デビュー曲の「Give Me Up」と、2枚目となるこの「I Don’t Know!」だけだし、オリコン最高位も、3枚目のシングル「Somebody Loves You 〜明日の恋人〜」が4位と、セールス的には、大成功だったとは言えないかもしれません……。

 しかーし! 60代以上のヒトが「ズビズバ〜」と言われたら、思わず「♪パパパヤ〜」と言ってしまうように、若い人……40代くらいの人たちが聴けば、「あ〜コレね!♪ア〜イ ドン ノ〜」と歌い出すほど広く知られている曲ですし、いま聴きなおしてみても、楽しいキモチになれる、実に良くできた作品です。よく言う、「記録」ではなく「記憶に残る」歌なのかもしれませんね。

 この曲が発売された1987年(昭和62年)は、マイケル・ジャクソンが後楽園球場で来日コンサートをやり、その10日後には、おニャン子クラブが解散、安田生命がゴッホの「ひまわり」を53億円で購入し、ワンレン・ボディコンが大流行していたバブリ〜な時代。

 CD プレイヤーが発売されてから5年目という年で、まだ、レコード、カセット、CD と、3つのメディアが混在していたころ。カセット同士のダビングができる「ダブル・ラジカセ」が流行っていて、1988年に発売された BaBe のベストアルバムなんかも、CDとカセットのみのリリースでしたし、同年『ヘッドホンステレオ・セレクト』というタイトルのベストアルバムは、カセットテープのみでの販売でした。

 この曲が発売された前年の1986年(昭和61年)に、売り上げベースで CD が LPレコードを抜いたものの、トータルの生産数では、CD が約4千5百万枚、カセットが約6千2百万本、レコードは1億枚以上(うちLPは4千2百万枚)と、まだまだレコードやカセットが優勢な時代でした。

 ちなみに、1982年10月1日に、世界初のCDプレイヤーが、日本では「ソニー」「日立(Lo-D)」「日本コロムビア(DENON)」の3社から発売となり、同じ日に、世界初のCDソフトが「CBSソニー」と「EPICソニー」から合わせて約50タイトル、「日本コロムビア」から10タイトルが発売となりました。
 このうち、世界初の商業用CDとして、最初に生産され発売されたとされているのは、ビリー・ジョエル の『ニューヨーク52番街(52nd Street)』(CBSソニー/35DP-1)です。あの『Honesty』とか『My Life』が入っているアルバムです。

 CDプレーヤーが登場してから2年後の1984年には、CDの生産枚数は、まだLPレコードの10分の1程度でした。しかし、その後、わずか2年後の1986年、CDプレーヤーがこの世に誕生してから、わずか4年で、LP と CD が逆転したというコトは、なかなかすごいスピードです。
 CD誕生から6年後の1988年ころには、CDが LP最盛期の生産量の1億枚を超し、10年後の1992年にはその3倍の3億枚を突破しています。
 というように、CD は、レコードやカセット、その後の MD よりも普及しましたが、いまでは、ストリーミングサービスというカタチのないモノになってしまうなどとは、当時は、夢にも思わなかったですね……。

 さて、この『I Don’t Know!』の作詞は、もともとはシンガーソングライターだったヒトで、アニメソングからアイドル、ロック系まで、なんでも書ける森雪之丞によるもの。
 しかも、『Hi-Hi-Hi』(あおい輝彦)、『アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた』(榊原郁恵)、『キン肉マン Go Fight!』(串田アキラ)、『悲しみよ こんにちは』(斉藤由貴)、『僕笑っちゃいます』(風見慎吾)、『100%…SOかもね!』(シブがき隊)、『バンビーナ』(布袋寅泰)……などなど、ヒット曲のタイトルを見ただけでも異彩を放っていて、その非凡な才能を感じます。最近でも、氷川きよしの『限界突破×サバイバー』なんかも作詞しているヒトです。

 この『I Don’t Know!』では、「バーゲンされた夢」「ファッションページ 切り抜いたような」「うかれ街のショーウィンドウ」と、当時のバブリ〜な世相を切り取りながら、「みんなに愛を配る 天使なんていないから」と、どこかシニカルで、「心で光る宝石は 誰もキャッシュじゃ買えないさ」と、誰もがハッとするようなインパクトのある言葉で言い切ります。ゴッホの「ひまわり」は53億円で買えたかもしれませんが、買えないものもある、人の心はおカネじゃ買えない……、今風に言えば、プライスレス……ということでしょうか。
 しかも、この歌詞を、元気に歌い踊るようなメロディに乗せているところが、また秀逸です(勝手に「曲先」だと思って書いていますが)。

 この頃、荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)』(1985年)、TBS系ドラマ『男女7人夏物語』主題歌だった石井明美の『CHA-CHA-CHA』(1986年)や、同じくTBS系のドラマ『男女7人秋物語』の主題歌だった森川由加里の『SHOW ME』(1987年)など、いわゆる「ドラマタイアップ」と「ユーロビートの洋楽カバー」全盛の時代で、BaBe のデビュー曲も、フジテレビ系のドラマ『あまえないでヨ!』(主演:斉藤由貴)の主題歌となった、マイケル・フォーチュナティのカバー『Give Me Up』でした。

 そんな中、フジテレビの「月9」ドラマの第1作目で、業界ドラマシリーズのハシリでもある『アナウンサーぷっつん物語』(主演:岸本加世子、神田正輝)の主題歌となった BaBe のセカンド・シングル『I Don’t Know!』の作曲を担当したのは中崎英也。プレッシャ〜は相当なものではなかったかと思われます。

 どうしてかって言うと、デビュー曲として歌ったカバーソング『Give Me Up』がヒットした後、それを超える楽曲が求められていたハズだからです。ヒット曲が出れば、聴く方も、次はそれ以上のヒットするような曲を求めてしまうものです。
 しかし、その期待に応え、ユーロビートの洋楽っぽい雰囲気を持ちながら、日本人の心の琴線に触れるようなキャッチーで無駄のないメロディという、これほど完成度の高い楽曲を作ったのは見事としか言いようがありません。

 何より、曲のプロポーションが素晴らしいです。音楽的に見ると……

<ココからしばらくは、興味のない方は読み飛ばしてください>
(ほとんどの方だと思いますが……なんなら、もうヤメてもらっても……)

 基本的には「A-B-C」という構成で、「C」のサビを最初に持ってきて付け加えた「サビアタマ」の形式ですが、その「C」のアタマの「ロンリネス きみの」のメロディは、メジャーセブンスから 13th に、そのあとの「かっこつけた」のところは、9th からルートにと、洋楽っぽくなるテンションにいくメロディを使いながらも、日本人好みのキャッチーなメロディになっています。しかも、このサビは、メロディックで、かつ、リズミックにできています。

 サビがサブドミナントのコードから入っているのに対し、続く「バーゲンされた〜」の「A」メロは、日本人好みのトニックからの下降クリシェのコード進行(ベース音が、ドシラソ〜と下がってくる)になっていて、大きく変化をつけています。

 で、「A」メロが、ハネるようなリズミックなメロディなのに対し、続く「心で光る宝石は」の「B」メロは、一転してメロディックに歌い上げるメロディで、「C」のサビへの期待感を煽っています……。

 ねっ、多くのヒトには、なんだかよくわからないかもしれませんが、スゴイ感じがするでしょ。良い曲(メロディ)とは、全体のバランス、プロポーションがよくできているものです……。

 <フツ〜の方も、お戻りください……>

 で、この抜群のポップセンスとバランス感覚を兼ね備えた作家、中崎英也というヒトも、もともとはバンドでデビューしていて、解散後に作家活動を始めています。
 1980年代には、今井美樹の『ポールポジション』や『オレンジの河』、アン・ルイス『WOMAN』など、90年代には、鈴木雅之の『違う、そうじゃない』や、小柳ゆきが歌った名バラード『あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜』などのヒット曲を書いています。
 この『I Don’t Know!』に続く3枚目のシングル『Somebody Loves You 〜明日の恋人〜』も中崎英也の作曲で、BaBe としては、オリコン最高位となる4位にランクインしたヒットとなります。コレも、3連の実にイイ曲です。

 歌って踊れる、ピンクレディとは違う新しい時代の2人組アイドルユニットとしてデビューした BaBe は、とにかく底抜けに明るいイメージで、元気っ娘ダンスが印象的でしたが、口パクではなく、ちゃんと歌える2人でした。明るい響きの歌声で、素直な歌い方が魅力でした。

 そして、『I Don’t Know!』の PV(プロモーションビデオ)も、当時としては革新的でした。
 当時、川崎市多摩区の京王相模原線駅前にあったファミレス「デニーズ稲田堤店」を舞台に、デニーズの全面協力のもと撮られもので、ドラマ仕立てのミュージカル風でした。
 BaBe の二人がウェイトレス役で、サビになると、突然、店内で歌い踊り出し、つられてお客さんも一斉に踊り出すという、最近、流行った「フラッシュモブ」を先取りしています。しかも、「A」メロなどは、セリフを喋っていたりして、曲は、ほぼ BGM 扱い……。
 デニーズの入り口に置かれている「ピンク電話」(ワタシは肌色だと思いますが)に、電話がかかってきたりするシーンもあって、時代を感じます……。

 BaBe が、わずか3年で解散になったのは、二階堂ゆかりの結婚が直接の原因ですが、1988年にデビューした、鈴木早智子と相田翔子のアイドルデュオ「Wink」の登場とブレイクの影響も、少しはあったかのではないかと思ってたりします……。なにしろ、1989年の「淋しい熱帯魚」は、その年の「第31回日本レコード大賞」で大賞を受賞して、「第40回NHK紅白歌合戦」にも初出場していますから。

 ちなみに、よく知りませんが、二階堂ゆかりの娘が、満月あいり(みつき あいり)という名前で、モデルや役者、歌手としてタレント活動をやっているようです……。
 現在28歳だそうで、……ん? 28歳! そんなに大きいのか!
 
 BaBe が歌い踊っていたのは、ついこの間だったような気がするのに……、どうりで、アチコチ痛くなるハズです……。

(2020年4月29日 西山 寧)


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MEG-CD(復刻 CD)BaBe「I Don’t Know!」

収録CD BaBe「Myこれ!Lite BaBe」ポニーキャニオン
収録CD「ザ・プレミアムベスト BaBe」amazon
デジタル・ダウンロード BaBe「I Don’t Know!」mora


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